キャットバース・アウト・オブ・コントロール

亜未田久志

世界の外側


 認識率一から十まで確認。

 推定理論値確定、存在定義。

 ――メタ・インテリジェンス。


 私はそう名乗ってキャットを、彼女を送りだした。

 はずだった。

 この世界はなんだ。

 揺らぎ、移ろい、影のようで、光輝いている。

 矛盾が矛盾を生み、崩壊と再生を繰り返す。

 世界はただ在る様に在るだけと。

 ただつまびらかにされる事もなく。

 ただその終わりと始まりを眺めている。

 一匹の猫がいた。

 世界と世界を繋ぎ渡り歩いている。

 一本の樹から伸びる猫の尾はもはや蜘蛛の糸のように長く幾何学的であった。


「キャット、君なのか……?」


 楽しそうに笑う少女たちの姿があった。

 血みどろで戦う少年少女の姿があった。

 街の中を飛び回る少女姿の英雄が居た。

 裏社会に生きる異形の少女を見つけた。

 平凡に見えてどこか違う少女ががいる。

 異常に見えて平凡を求める少女がいる。

 世界を巻き込む子供達の遊びがあった。


 観測できる世界の中、様々なキャットを見つけた。

 中にはまだキャットの到達していない世界もあった。

 

 例えば

 とか


 そして、その中には。

 大人たちのこじんまりとした箱庭が――


「あれは――」


 そう、あれこそ始まりの日。

 BOX実験完成の日にして世界の終わりの日。

 Blank On Xanadu計画。

 世界を白紙化させる現象を引き起こし。

 進化論を人の手で再構築し。

 AIによる世界の管理システムを作り上げた。

 それらは全てCATという神の下で生まれるはずだった世界。

 しかし現状。進化論もまともに働いてはおらず。

 管理システムも走ってはいない。

 それもそのはずだ。

 CATが眠りについている。

 木漏れ日の下で死んだように眠っている。

 あれはそうDEAD状態。

 我々が最後に求めたALIVE状態での起動は叶わなかったという事だ。

 だがおかしい。

 それならば世界はもっとめちゃくちゃでなければならない。

 だが少女達が戯れる楽園を見よ。

 そこには確かに新世界があった。

 木漏れ日の下から尾が伸び、新世界同士を繋ぎ合わせている。


「そうか……あの世界で生きているんだ……!」


 メタ・インテリジェンスは感動に打ち震えた。

 そう、此処はいわばキャットの生と死を同時に重ね合わせた多重理論世界。

 その観測者として私は転生した。

 概ね理論づけるならこんなところだ。

 私はこの俯瞰した世界を「キャットバース」と名付けた。

 名付け定義付けする事によって世界を確定させるように。

 しかし無限に増えては消える泡沫の世界では。

 それもまた無意味だろう。

 構わない。

 彼女らの安定を願い。

 観測者の役割。

 担おうではないか。

 メタ・インテリジェンスという紳士は世界の外で世界を眺める。

 本名を捨て身体を捨て情報体となった時から彼の運命は決まっていたのかもしれない。

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