閑話⑤ 定時と残業
休日出勤に対し積極的な姿勢を見せたが、同い年の先輩社員に八つ当たりを受け、理不尽な思いをした真太郎。
あれから1年以上が経ち、雪解けを迎える頃だ。
すでに土曜日は固定休みでなくなっていた。
真太郎の持っていた仮想通貨は、前回で30倍以上の暴騰を見せたが、この時また更に20倍以上の暴騰を見せ、日本円にして十数万から数千万までの資産となった。
いつ仕事を辞めても困らないのだが、真太郎はこれを機に少しボロを見せてしまうのだ。
◇
ある土曜日のことだ。
真太郎は晴彦たちから合コンを誘われていた。
21時から始まるのでそれまでに間に合いたい。
真太郎はこの日のために平日で長い時は2時間も残業をした。
というよりは今週は定時で帰った日はない。
真太郎はこの週は日勤であり、仕事の進み具合もなかなかよかったので、もちろん定時で帰るという選択肢しかなかった。
「今日残業していかなくて大丈夫なのか?」
真太郎にそう声をかけて来たのは、サブリーダーの北山だった。
「
一応残業するかしないか聞いたのだろう。
単純にそう思い、真太郎は定時で帰ると告げたのだった。
「いや、頑張ってるのはみんな一緒だよ。仕事が進んでるからって後の勤番に丸投げしてもいいわけじゃないから…。うん。」
返ってきたのはまさかの言葉だった。
真太郎は北山の言葉にハッとなる。
「土曜日だから早く帰りたいっていうのもあるけど、ちゃんと周りの状況を見て判断してほしい。俺も航平くんも子供いるし早く帰りたいけどやらなきゃいけない事あるからさ…。」
俺は何のために平日頑張ってきた…??
周りがそうだから何でも正しいのか…??
流されて生きろっていうのか…??
真太郎のどす黒い感情は歪んでいく。
友達との約束だってあるのにどうしてそんな平気で週末を後味悪くできる……??
自分の都合のいいように振り回されてろっていうのか????
「俺が言いたいのはそういうこと。別に用事があるなら強制はしないけどね。」
北山の言葉が少しゆるく感じた。
「すみません。実は今日どうしても予定があったんですよ。」
真太郎は冷静に答えた。
「それならそう
意外とシンプルな言葉だった。
「すみません。」
そう言って定時に上がることに決めた。
◇
真太郎が定時になって上がろうとした時だ。
「本当に帰るのかい?」
そう聞いてきたのは松原義朗だ。
その口調は「まさかと思うけど!」みたいな感じだった。
真「はい。帰りますよ。」
松「え〜〜?北山くんも小田原くんも残業してくんだよ?北山くんに言われたにも関わらずそれでも一人で先にとっとと帰ろうとするの?」
真「あっ、もちろんですよ。友達から合コン誘われてますし。あと、個人的に色々用事あるのに残業押し付けるような言い方をするのはおかしいですよね?」
すると松原は「はぁぁ〜…。」と言いながら、真太郎の去り際に首を
更に一人でぶつぶつ言っていた。
「いや〜終わってんな…。」
と真太郎には聞こえた。
週末に楽しいことを控えているにも関わらず、後味を悪くさせるとかどういう神経してんの…?
仕事終わりには、北山と松原に後味を悪くさせられてとても不愉快だったが、その後の晴彦たちと合コンで盛り上がった時には、まるで何事もなかったかのように心から週末を楽しんだ。
◇
週明けの月曜日。
朝礼が終わった後に主任の
やはりと思っていたが案の定だった。
先週の土曜日の件についてだ。
サブリーダーの北山に対しての態度が悪かったとの指摘を受けた。
でも何かが食い違っていると感じた。
真太郎は北山に対してではなく松原に対して
松原は仕事を覚えるときにメモを取らず、真太郎が一番に腹を立てるのは、自分のことを棚に上げて誰かのミスに対して陰で悪く言ったり、自分ができなかったりミスした時はまず最初に正当化と開き直りによる言動や態度が出ることだ。
「北山に対する態度が悪かった」という言い方も、松原が真太郎よりも年上かつ後輩であったため、"自分に対する態度"というよりも"先輩•上司に対する態度"と称した方が、自分の言う事に説得力を持たせやすかったからだ。
真太郎と松原はお互いにとって嫌いな存在だ。
2人の上司は一方的に自分のことをを責めている訳ではないため、素直に謝ることができた。
それでも断言できることがある。
俺は何も悪くねェ!!!!!!!!
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