閑話② 休日出勤

晴彦たちと初めて会ってから半年が経つ。

年が明けて翌月には25歳の誕生日を迎える。


水曜日の出来事だった。

朝礼にて、サブリーダーの坂東ばんどう良一よしかずからの通達だった。


「今週は土曜日に出勤があります。全員ということではないですが、出勤される方は今週1日休みがなくなりますが、ご協力お願いします。」


坂東は謙虚にそう伝えた。


この事実を知った人たちは「生産が多いにも関わらずここまでさせるのか!」とか「土曜出勤するの面倒くさっ!」って言う人もいた。


それは誰もが思う。

1日休みが潰れて喜ぶ人はまずいないだろう。



土曜日の出勤に消極的な声がある中、真太郎はリーダーの西野にしの智成ともなりに出勤すると伝えた。


ところが翌日、真太郎は西野からこのような返事が返ってきた。


「昨日さあ、土曜日出勤するって言ってたけど普通に休んでいいよ。積極的な姿勢はありがたいんだけどね。まあそういうことだからさ。」


真太郎はすぐに「はい。了解しました。」と返答した。



「土曜日出勤するって西野さんに伝えたんだって?」


約1時間後に真太郎に声をかけてくれたのは、先輩の小田原おだわら航平こうへいだった。

真太郎の中では、先輩の中で一番話しやすくて優しい存在である。


真「あっ、はい。でも出なくていいって言われました…。」

小「あはは。無理することないよ。相葉くんは派遣なんだし。気持ちはありがたいんだけど。まあ土曜日は普通にゆっくり休んでね。」

真「なんだかすみません…。」


そう言って、真太郎は仕事に戻った。


そして土曜日はいつも通りに休み、この日は毎週テレビで見ている好きなアニメの映画を見に行った。


その後は、晴彦たちと札幌で飲んだ。



週明け。今週は夜勤だ。


早速現場に入り、いつも通りに仕事を進めようとする。


「なぁ??」


真太郎に素っ気ない一言で語りかけて来たのは、掛橋かけはし雄真ゆうまだった。


真太郎とは同い年でありながら先輩であり、正社員を6年目だ。


「あっ、うっす!」


この声の掛けられ方に少し腹を立てたのか、真太郎は少しいい加減な態度になった。


「いや…、『うっす!』じゃねぇんだわ。」


掛橋は何やら不機嫌そうだ。

どうしてこんな言い方をされているのかがわからない。

すでに不快感だ。


掛「あのよぉ…お前さぁ?休日何してた?」

真「映画見に行ってたわ。」

掛「ほぉ〜〜??俺らが休み1日潰して働いてる中で??」

真「いや〜マジすごかったわ!主人公と同じ顔の奴らとで5人集まれば伝説の英雄の強さを超えちゃうんだもんなぁ!」

掛「いや、そんな話してないんだけどさぁ。」

真「あれは小説から読んでるんだけどアニメになったらこんな迫力があってマジ鳥肌…」

掛「だからそんな話してねぇんだって!!」


何に対して怒ってるかわからない。

それ以前にお前の話し掛け方が腹立つわ!

出勤してきて横からいきなり何なのよ??


掛「俺が言いてぇのは…、何でお前が休日出勤したいって言ってたのに出してもらえなかったかこの休みで考えなかったのか?」

真「いや、考えるも何もきちんと理由聞いたわ!人足りてるってよ!」

掛「そりゃあ本人の前では直接言わないだろうなぁ…!水口みずぐちさんが相葉は出さなくていいって言ってたことをよ!」

真「じゃあ何で水口さんが俺を出さないって言ったか教えろよ!!」

掛「お前が一番わかってんじゃないの??派遣の分際で仕事量も少ない上にいつまでも同じ仕事しかしてなくて量をこなしてたってそんな奴に金やりたいと思うか?休日出勤には手当があって高く付くんだ。」

真「それはお前の思い込みで水口さんの言葉じゃねぇだろ!!何なんだよいきなり??休んだ奴に八つ当たりしやがって!!派遣イビリか??後輩イビリか??」


真太郎と掛橋の言い争いには流石に止めに入る人もいた。


小「2人とも落ち着こう?」

?「2人ともこれ以上やめろ。」


小田原航平と共に2人を止めに入ったのは、もう一人のサブリーダーである北山きたやま純輝じゅんきだ。


そして何よりも、真太郎にとっての助け船が入る。


「言い争い聞いてるけどよ、掛橋間違ってるぞおめぇ!!」



リーダーの西野智成が君臨したのだ。

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