第29話 アフター

セミナーが終わり、参加者たちは各自でご飯に行ったり飲みに出かけたりする。


涼一郎とレンレンは、同じく表彰された洋子とは他系列で同じくダイヤモンドのタイトルを取得した越後谷えちごや凌樹りょうきとそのグループの一部と集まる予定だ。


真太郎は…


角「相葉!年下の方の相葉!」


キャドさん…真太郎と呼んでくれないのか…。


真「はい!」

角「この後こっちーと武史たけふみと俺と4人で飲みに行こう。」

真「はい!行きます!」

角「まあ新しいタイトル取得したからにはお前らに語り明かしたいことがある。」

真「お!本当ですか!楽しみです!」



とある居酒屋に到着し、4人は1杯目に生ビールを頼む。


男「カンパ〜〜イ!」


異色面子いしょくめんつでの飲み会が開幕した。


角「まずは3人ともタイトル取得おめでとう!」

真•東•島「ありがとうございます。」


キャドはエメラルドというタイトルを取得している。

晴彦が取得したサファイアの次のタイトルで、真太郎と武史たけふみが取得したルビーの次の次ということになる。

キャドは、次のタイトルであるパールの取得を今年中に狙っている。


角「晴彦は今回サファイアというタイトルだけど、今俺が持っているエメラルドというタイトルは案外壁が高い。ルビーからサファイアであれば相葉がいたのも大きいけど、気力だけで何とかできる。でもエメラルドからは総合的な角度から問われてくる。俺もどれだけ精神をすり減らしたことか…。」


3人は、キャドの前向きな姿勢や雰囲気しか見たことがなく、辛い顔をした一面を知らない。


角「俺が人生で一番悔しい思いをしたことって何だと思う?」

島「親友と縁を切ったことですか?」

角「あっ、いやいや、"人生で"でな?当てたやつ今日の飲み代奢るわ!」


と言われたものの、全員当てられずギブアップした。


角「実はな…高体連の全道大会だ。」

真「こ…高体連ですか!」

角「まあ俺は小学校時代に空手をやっていてな、大会でも賞を取ったり中学までは札幌含め石狩いしかり地区では無敵だった。でも高校に入ってからは違った。小樽や積丹しゃこたんなどの後志しりべし地区の高校生がやたらと強かった…。小中学生までではそんな事聞いたことがなかったし、札幌圏内で勝てれば北海道で一番の実力だと思っていた。高体連全道は1年生で出場したけれど、まさかの1回戦負け。その相手は後志しりべし地区の3年生だった。自分でも信じられなくて流石に泣いたな。」



自分自身の実力が、ある時どこかで何かの拍子で突然通用しなくなる事がある。

そんな人たちを真太郎は見たこともあった。


角「2年生になってから単独ながらも後志しりべし地区の高校生と組ませてもらった。でもその壁は高かったが、いよいよ勝てるまでに上り詰めた。3年生の高体連全道大会では、後志しりべし地区の高校生には苦し紛れに白星を納めたが、決勝戦で大きな壁が立ちはだかった。あいつのことは名前以外は鮮明に覚えている。爽やかで優しい雰囲気をした彼だが、他の後志しりべし地区の高校生とは比にならないくらい強かった…。完敗だった…。全国大会に出場できるものの、優勝と準優勝の差がここまであったというのが…本当に悔しかった。」



キャドの高校時代の部活動の話を聞いて、悔しい結果は悔しいままで終わるのではなく、やり直せない過去があるからこそ、それをバネに何かで力を入れるための大きな原動力となるということを、真太郎たちは実感した。


角「だからこそ俺は、この事業に誰にも負けないくらい行動し目立ちたい。知名度を上げたい。そして…決してあいつと比較する訳ではないが、洋子さんや越後谷えちごやさん、そして…哲也さんに極限に近づけるようにもっともっと行動し結果を出したい!」



いつもは面白おかしく接しているキャドさんたちの熱い気持ち目の当たりにし、熱い言葉を耳にするのは滅多にない機会だった。


キャドは、自分が得意としトップの存在だと思っていた矢先、自分を越える者の存在に出会でくわしたことで、プライドが傷つき折れそうになったこともあった。


過去に受けた屈辱というものはこれからも記憶に残り続けるものであり、一生残る傷になるだろう。


それは大きな経験であり、これからの自分たちの幸せや強みになるだろう。



真太郎たちにはこれから先、どれだけの困難や試練が待ち受けているだろうか。


そしてどう向き合うのか。



これから先何が起こるかわからないからこそ、彼らはそれが楽しみで仕方ないのかもしれない。

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