第30話(終)洋子の記憶

日曜日。


真太郎が派遣元の担当から当然のクビを宣告されてからちょうど1週間が経つ。


この日、真太郎•晴彦•レンレン•涼一郎の男4人は陽菜の車に乗ってお出かけをする。


墓参りだ。



洋子は中学時代から付き合っていた彼氏が、道路に転がって行った野球少年団の子どもが使っていた球を拾いに行った途端、トラックにはねられて心肺停止の状態になった。


その後、彼は息を引き取った。



彼の死からもうすぐ13年経とうとしている。

洋子が高校1年生の時の事だった。


名前は桜庭さくらば匠海たくみ

洋子とは小学校からの同級生だ。

みんなからは『たくりん』という愛称で親しまれていた。

小学6年生の時、洋子が足を怪我したのを機に2人の距離が縮まったという。



陽「着いたぞー!お前ら全員起きろ〜!」

男「全員起きてますっ!!」

陽「ならよかった。」

涼「(さっきまで俺とずっと喋ってたやろ…。)」


そして、マユミリアの次女•美里亜が運転していた車から洋子•麻里亜•優里亜が出てきた。


優「なんか人数が9人っていうのがちょっとね…。」

古「それちょっと思ってましたね…。」

陽「じゃあレンレンが分身してレンとレンになるから10人になるねっ!」

涼•東•真「(意味がわからん…。)」

古「もともと『れん』なんですけど…。」



車を駐めた所から間もない場所に『桜庭家之墓』と書かれたお墓がある。


このお墓に中学時代からの洋子の恋人『たくりん』こと桜庭さくらば匠海たくみが眠っている。


ここにいる真太郎を含め、洋子以外はたくりんのお墓参りは初めての事だった。


陽「キャドは連れて来なかったの?」

洋「実はね…連れてきたことあるの。でもキャドと来た時は天気予報では晴れのち曇りってなってたんだけど、着いて色々お供えした途端土砂降りになってさ。キャドが『もしかしたら俺匠海くんに嫉妬されてるんじゃないのか?いや、多分きっと嫌われてるな…』って落ち込みながら言い出すからさ、あたし笑いながら『バカね。』って言ったけど…。あたしのこと狙ってるって思われてたんじゃないかな?ふふっ!」


キャドがいなく9人という人数での墓参りの中、本日の天気は晴れだ。



いつもは洋子が一人で来るのに、今日は事業のメンバーをたくさん連れてきた。

それにはもちろん理由がある。


報告に来たのだ。


真太郎が洋子と出会った時から目標としていた、ダイヤモンドというタイトルを取得したことだ。


そこで、今日は改めて自分自身が共に活動し育て上げている洋子のメンバーをたくりんに紹介したかったのだ。


洋「たくりん。あたしね、ずっと目標にしていたダイヤモンドというタイトルをついに取得したんだよ。もしたくりんが生きていて一緒に事業やってたらさ…一緒に成功してもっともっといっぱいやりたい事ができて……」


洋子は言葉に詰まってしまった。

本当はみんなの前では泣かないと決めていた。

だが、洋子は当時のことを思い出して胸が急に苦しくなってしまったのだ。


陽菜とマユミリアも洋子にもらい泣きしながら、洋子を励ます。


麻「洋子…ぐすん…頑張って!」

陽「洋子…頑張って!!」

美「洋子…!」

優「洋子…!」

男「洋子さん!!」


洋子は涙を流しながらも、みんなに背中を押されて答えた。


洋「みんな…ありがとう…ぐすん…ごめん…ちゃんと最後まで言うからさ…。」


麻里亜は洋子の背中をさすった。


洋「ぐすん…たくりん…。今ね、あたしは多くの仲間に支えられて…一緒に頑張ってくれる人も多くて…あたしは幸せなんだよ!たくりんが一緒にいてくれたらもっともっと幸せなんだよ!!」


その時だった。


匠「泣かないで洋子。幸せなのにそんなに泣いちゃ洋子が足を怪我した時を思い出して俺悲しくなっちゃうよ。」


え…たくりん…?どこ…?生きてるの??


匠「俺も中学時代から今に渡って生きていたら洋子と結婚したかったな。ずっとずっと隣にいてあげたかった。ううん…俺はいつも洋子の隣にいるよ。洋子には見えないけどずっと見守っているからね。今日だけ特別だよ。さあみんな待ってるよ…ほら。」


陽「洋子!?」

洋「あれ…?たくりんは?」

陽「何言っているの?洋子いきなりずっと目つぶっちゃうから心配したんだよ。」

優「も…もしかしてだけど…たくりんと話していた…とかかな?」

美「そうかもしれないね…。」

涼「大丈夫ですか…?洋子さん…。」

洋「うん。大丈夫。たくりんの声聞けたもん。」

美「(うん。やっぱりそんな感じしてた。)」



洋子のこの一瞬の出来事は、ここにいる他の8人の記憶にもしっかりと焼き付いている。



墓参りが終わり、みんなとは解散した。

ホテルに戻った真太郎は、洋子のことも含めて色々思い返す。


今週はとてもとても濃い1週間だった。

過去に例を見ないくらいに。



月曜日は突然派遣元の担当から『今週いっぱいで終わり!』とクビを宣告された。

火曜日は前日に引き続き平然と小樽を満喫。

水曜日は遊びに行ったのがバレて今日中に出て行けと言われたその日にパーティー参加。

木曜日に新たに弟を一人設けた。

金土日は事業仲間と楽しい楽しい週末。



派遣契約終了した俺は、金持ちニートデビューしました。


そしてこれからは…


自由人として本気で遊び、本気で仕事します!



To be continued!

Thank you for reading!


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