第9話 君は何も悪くない

仕事の調子を聞かれ、相葉は正直に答えた。


「実は…今週いっぱいでもう辞めちゃうんですよ…。」


今はまだ5月の中旬である。大森は不思議そうな顔で聞く。


「あれ?まだ5月の半ばだけど、このタイミング切られたってことは、何か問題になるようなことしたの?」

「いえ…実は…副業やってたんですけど、それがバレたみたいで…。」

「えーっ??何それ??いや、だってさ、雇用主が派遣会社だから現場の人はさ、他に収入得てたって口出しできないんじゃないの??えーそれちょっとおかしいよ。」

「僕もそれは思ってます…。現場をやめるか副業をやめるかという選択肢もなしにですよ?」

「うーん。確かにいきなり切るのはおかしいけど、でもやっぱりさ、仕事に専念して欲しかったってのはあるんじゃない?」


大森は相葉の身になってくれた。

彼の嫌いなことは、自分や周りに迷惑をかけることや嘘をつくことだ。


それよりも、自分が好きなこと・本気で向き合っていることに口を出し、踏みにじることだ。


人生の価値観は俺と似ている。


「そうですね…。やっぱり自分が他に稼ぎがあるのをの知ってこころよく思わない人もいるって事も考えるべきだったと…」

「いやいや、人を妬んだって何も得られないよ。行動してない奴が悪いんだから。考えたって仕方ない。でも、一緒に働いてた人たちに迷惑かけちゃったってことは、自覚しなきゃダメだよ!?」


派遣先の対応はおかしいけど、それでもお世話になった人たちに迷惑をかけてしまった。


大森さんの言うことに反論はなかった。


大森さんは基本俺に優しい。

まあ、初めましての時の大森さんの第一声はちょっと怖かったけどね…。



「ところで、相葉くんホテルはとってるの?」

「あっ、はい。駅前の近くのホテルです。」

「あーとってたんだ!?」


俺がホテルを取っていたことになぜか少し残念そうな大森さん。


「これからさぁ、そこのホテルでパーティーあるんだよ。それで俺今日パーティーの後ここに泊まるからさ。」


なるほど。そういうことか。


「泊まらない人でもパーティーだけなら参加できるよ?」

「そうなんですか。」

「1人で寿司食べるよりもみんなで楽しんだ方がよくない?俺の友達には知ってる人いたら誘ってーって言われてるからさ、相葉くんも行こうよ。」

「あっ、はい!参加させていただきます!」

「おっ、本当に!?なんかノリで誘っちゃったけどいいの?仕事も突然切られちゃったのに…。」

「はい。大丈夫です。こう見えてもしっかり前を向いているんで。」

「おっ!俺相葉くんのそういうとこ好きだよ。」


とても嬉しかった。



『家出した男の子が行き着いた先で人々に囲まれて幸せに生きるみたいな物語』



なんちゃって。。。

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