ホテル暮らし編

北海道小樽市③

第8話 実感が湧かない

副業を理由に派遣先を突然クビになった相葉は、小樽に向かって運転してる中で色々思うことがあった。


3年ほど前から住み始めた集合寮は、自分の部屋に入った途端、物凄く寂しい思いをした。

前の派遣先ではアパートに住んでいたため、田舎ということもあるが、集合寮に来たばかりの時は自分の家って感じがしなかった。


でもやはり突然出て行くとなると、その時とはまた違った寂しさが芽生えて来る。

何にしろ自分の住処すみかがなくなったわけだ。

月日が経つにつれて自分の居場所と自然に思うようになっていたが、もう今となっては自分の居場所ではないのだ。


だが、自分のやりたいことや正直な気持ちを押し殺してまで居たいとは思わなかった。

しかし、"本業を取る"か"副業を取る"か以前の問題。

『今週いっぱいで終わり』と突然の通告。



なんか…いつも週末に遊びに行ってるような感覚だ…。

俺は本当に仕事を辞めたんだ…。

なんか実感が湧かない…。


心にぽっかり穴が空いたまま運転を続け、相葉は小樽に着いた。


「ご飯どうしよう…。」


夕食何を食べるかが決まらないのだ。



小樽には美味しい店がたくさんあることは知っている。

回転寿司、焼き肉、牛丼屋、ラーメン屋、ハンバーガーチェーン店、カレーチェーン店、駅前のファストフード店、小樽運河を眺めながら食べられる洋食レストランなど。


食べ物が喉を通りそうにないという訳ではないが、美味しいものを食べたいという気分ではない。


「とりあえず車置いてホテルに戻るか…。」


一人でそう呟くと、24時間で最大料金600円の有料駐車場に車を停めた。


歩きながらでも何か考えてたらきっと何がしたいか見えてくるだろう。


俺はホテルに到着した。


そうだ。お酒を飲もう。

少しは気分が明るくなるし、先が見えてくるかもしれない。


2階の大浴場の向かい側に休憩スペースがある。

ビールを手に取り、ちびちびと進めて行く。


お酒が入ってきたのか、気分が晴れてきた。

さっきまでのどんよりした気持ちが解消したわけではないが、アルコールによってその気持ちが、かき消されるような感じだ。


夕食をどうするか決めた。

ここから徒歩10分くらいの国道5号線沿いにある回転寿司にしよう。


そう思い立った相葉は、ホテルを出て駅前の坂道を下り回転寿司店に向かう。


平日だし、まだ夕方の時間帯だからすいているだろう。


そう思いながら歩いていると


「あれ?相葉くん?久しぶりだね!」


俺に声をかけてきたのは、去年いっぱいまで同じ田舎町の派遣先で働いていた大森丈おおもりじょうさんだった。


大森さんは小樽出身で、派遣先を辞めた後は地元に戻り就職している。

36歳で、自分より10歳年上だ。


「あっ、お久しぶりです!」

「本当だね。元気だったかい?」

「はい。何とか。」

「そうかそうか。これからどこ行くの?」

「回転寿司行くんですよ。」

「あぁすぐそこの回転寿司かい?」

「あっ、そうですね。」


まさか、去年まで同じ職場で働いていた友達とばったり会うとは想像していなかった。


そして、やはりこの質問が来た。



「仕事の方は順調かい?」

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