第8話
怪人が主人公になる世界では命を懸けて世界征服を達成しようとする怪人がいて、その邪魔をしてくる仮面ライダーがいることになる。
ライダーを排除しない限り毎度毎度の邪魔が入るのだ。おそらく他のシリーズでも同様であり、世界征服以外に目的が変わるだけでライダーからの妨害を受けている。
子供の頃は「勧善懲悪」的なものだと思っていたのだが、少しだけ違って見えた。世界征服を目論む組織を「悪」と断定してしまって本当に良いのだろうか……。
そう考えると、改造されてしまった主人公の「私怨」として見えなくもない。
「世界征服の手段が暴力だからダメなのか……?」
結城は、すでに世界征服が「悪」は考えていなかった。
ただし、暴力以外で世界征服する手段は思いつかない。結局のところは「戦争」へ結びついてしまう。
「……洗脳するとか、買収するとか……なら良かったのかな?」
「どっちも犯罪行為だ。まずは国民を味方につけないと。」
「選挙で当選を重ねて総理大臣になってから、世界征服するの?」
「それって結局は国同士の問題に発展して、戦争行為になるからダメだろ?」
「違うよ。総理大臣になって、他の国よりも豊かな国にして、経済大国になるの。……そうすれば世界のトップになれるじゃん。」
「それが、世界征服なのか?……悪者どころか、すごくいい指導者になるんじゃないか?」
「だって、あれだけの人間を改造できちゃう組織なんだよ。すごい科学技術があるんだから、頑張れば出来るんじゃないかな?」
「人間を改造してるだけで、社会的には大問題だろ。」
「そうかな?あんな見た目に改造するから敵になっちゃうんだよ。もっと、美男美女の軍団に改造したら、皆から応援されたかもしれないよ。美的センスの欠落も指導者として失格ね。何で、あんなにも気持ち悪い怪人ばかり作っちゃったんだろ。」
「それはもう改造じゃなくて整形だよ。……怪人は見た目を気持ち悪く作ることで民衆に恐怖を与えないと。」
「それって恐怖で従えるってことなの?」
「余計な戦いを避けて無駄な労力を使わない手段だよ。」
「戦うことを目的で怪人を作ってるのに、余計な戦いは避けたいの?やっぱり戦いを避けたいならイケメン怪人や美女怪人が効果的だと思う。」
「確かに倒し難くはなるかもしれないな……。」
「ちゃんとしたデザイナーを採用しておけば良かったのよ。どっちにしても焦り過ぎね。指示する人が時間をかけて、ちゃんとした作戦を立ててたら失敗なんかしないよ。」
「……お前が指導者として怪人を従えてたら、世界征服できるかもな。」
結城の皮肉を妹はニコニコしながら聞いていた。
子どもが見る番組として「〇〇戦隊」や「仮面ライダー」は「正義の味方」である前提があり、疑う余地はないと考えられている。
しかし、怪人にも目標を持って頑張っているのかもしれない。
その手段が悪くて犯罪集団として対処しているのであれば、野上の疑問にあったように裁判で白黒つけるべき問題なのかもしれない。
公平な視点で善悪を判断して、断罪しなければ個人的感情で衝突しているとしか思えなくなる。
彼も幼い頃、誕生日プレゼントやクリスマスに「変身ベルト」や「超合金」をお願いしたことはある。
そんな頃はヒーローを無条件で応援して、怪人が倒される瞬間を喜んで見ていた。だが、大人になり怪人の背景まで想像してしまうと、画面に映る姿に親近感を覚えてしまう。
「……大人になってから見てると、敵の戦闘員たちの方が共感できるかもしれないな。」
その後、しばらくは兄妹での雑談視聴が続いたが夕方近くになり妹は帰っていった。
一人になった部屋で結城のライダー視聴は続いていた。その途中、何度か最新版の告知映像が流れた。数日前にも衝撃を受けたのだが、初代を見た後だと更に衝撃は増している。
結局、現代版も継続して見続けて深夜まで楽しんでしまっていた。そして、眠りに入る時に翌日の行動を決めていた。
日曜日は早めに目覚めて、自宅からは少し離れた商業施設へ車で向かうことになる。
目的の商品の入手を最優先に考えていたが、広い商業施設の中でも容易に見つけ出すことは出来た。支払いに持って行くことに躊躇いながらも勇気を出して会計へ持って行く。
会計を担当してくれた女性スタッフは結城の顔を見ながら、
「贈り物ですか?」
と、質問を投げかけてきた。
「……そうです。」
潔くない言葉であることを自覚している結城は、少しだけ情けなく感じてしまう。
別に恥ずかしいことではないのだが、36歳で「自分用」に購入したと思われるには多少なり抵抗があった。
現代版ライダーを見ている内に「変身ベルト」に手に入れたい衝動を抑えることが出来なくなっていた。
手元にモノがあったとしても積極的に遊ぶわけではないのだが、無駄にはならない不思議な自信もある。子どもの頃に買えなかった玩具を、大人になってから収集してしまう人の気持ちが少しだけ理解出来てしまった。
結城は帰宅途中の信号待ちで助手席に置いた紙袋を眺めて、年甲斐もなくワクワクしてしまっている。
その中には綺麗にラッピングされた箱が収まっていた。
その日の夜も特撮ヒーロー上映会は開催されることになる。
画面の中のヒーローと同じベルトが傍らに置かれており、時折チラチラとベルトに視線を向けるてしまった。その行為は彼の結婚を更に遠ざかることを意味している。
◇
仕事をしている一日と休日の一日が同じ二十四時間であるとは思えない。その感覚は世界中の大人が共感できるものだと結城は確信していた。
月曜日の朝特有の憂鬱さを感じながらベットから身を起こし、目覚まし時計を止めることに成功する。
大学を卒業してから会社勤めであり、単調な毎日の繰り返しに慣れてしまい。少しくらいの不満で転職を考えるようなこともなくなってしまっていた。
変化は魅力的でもあるが、苦痛を伴う。変化のない日常に対する不満と変化を求めて行動した時の苦痛を天秤にかけてしまえば、変化のない日常を選択し続けてしまうのだった。
出発の一時間前の起床ではあるが、比較的のんびりと朝食をとることが出来る。
客先へ訪問予定がなければ私服での出社が許されているので着替えには時間がかからないのだ。訪問予定があったとしても、会社のロッカーにスーツを常備しているので、基本的には毎日が私服での出社となっている。
そもそもがフレックスタイム制であり、コアタイムに間に合えば問題ないのでゆとりを持って家を出発している。
周囲に民家が少ない自然に囲まれた場所にある会社だが、飾り気の全く無いコンクリート壁の外観は周囲の景色に溶け込めず異様な雰囲気がある。取り囲む塀も高めになっており、あらゆる角度をフォローできるよう監視カメラが設置されている。
敷地内に進入するためには警備室でIDカードを認証する作業がある。警備員とは顔馴染みなのだが、タイムカードの役割も果たしてくれるので省くことはできない。
従って、警備室の前では毎朝渋滞が発生してしまう。
駐車場で車をとめて、建物に入る時にもIDカードを機械に通す必要がある。更に、建物内の通路毎に扉があり、目的の部屋に辿り着くまでの間にIDカードが必要だったり、暗証番号を入力したりと、慣れるまでは面倒には感じていた。
研究開発は機密情報を取り扱っている部署も多く存在しているため、やむを得ない措置ではあるが目的地に着くまでが大変だった。
しかしながら、チーム「風鈴」が現状で抱えている業務で、そこまでの防衛が必要なレベルの情報はない。結城は、厳重なセキュリティを通過するたびに申し訳ない気持ちさせられていた。
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