第4話

 その後、女王は女児を出産した。女王が衰弱していたこともあり、難産だったが、なんとか母子ともに無事であった。


 女王は、自らの静養と子育ての為、しばらく城を離れた。都から遠い、田舎の離宮で、王女と数人の侍女と共に暮らす。



 女王の導きを失った国は混乱に陥る。


 臣民たちは女王の代わりに幼い王子を玉座につけようと必死になる。


 まだ五才の王子、莉黎。その後見人こそが国の実権を握る。醜い大人たちの欲望が渦巻く中、莉黎の後見人は、莉黎自身によって決められた。


 後見人、それは、王子の教育係。


 女王の最初の夫の弟、女王に見捨てられた三番目の夫、清泉だった。



 二人目の夫の喪失は、深く女王を傷つけた。


 都の、女王の不在は長く続いた。


 その間、王室の弱体化に漬け込んだ者の反乱や、民の小さな暴動もあった。だが、その一つ一つに、清泉は冷静に対処していった。


 彼は、女王に忠誠を誓い、「女王に輝ける国を捧げよう」と臣下を一喝した。決して才能のある男ではなかったが、芯の強い男であった。

どんな問題が起ころうとも、清泉は動じない。誰に何を言われても、彼の中心に在る女王への忠誠心は揺るがなかった。


 女王の不在は、十年続いたが、清泉は一度も自分本位の行動をしなかった。


「全ては女王陛下の為に」


 彼は二言目には、そう口にする男であった。


 当初は彼を不審に思っていた民たちだが、そんな彼の姿勢に、徐々に信頼を寄せるようになる。


 そうして十年、国の誰の目から見ても、清泉が女王を一途に愛していることは明白であった。



 国を支え、王子を支え、悲しみに沈む女王の重荷を喜んで背負った。決して振り向かれることはないと分かっていても。それでも夫として、彼は彼女に尽くし続けた。



 そして、女王の悲しみが癒えた頃、王子は成人し、逞しい王となった。莉黎の齢十五の誕生日、戴冠式が行われ、母に似て聡明な王子は王に即位した。


 少年王莉黎は母の手を引き、高台から国を見渡した。色を失った長い髪が太陽に照らされて、銀色に輝く。


 かつての女王は、そこに自分を待ち望んでいた臣民たちを見た。


 拍手と歓声。


「女王陛下万歳!」


「女王陛下に忠誠を!」


 やまぬ歓声に女王は涙し、正装の裾を持ち上げると、深く深く礼をした。



 その後、女王は王女と共に都の城へ移り、穏やかな余生を送った。


 傍らには、清泉。


 彼女が彼の愛に答えたかどうかは、誰も知らない。









 終わり

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女王の国 @hinataran

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