12、いちごパンツの秘密

 引き出した紙には「歴史」と書いてある。

 柳之介、大ショック。考証とかめんどいから書きたくない、いや書けないと常々、思ってきたジャンルに、よりによって、いきなりヒットだ。

 歴史そのものは好きな方なんだけどな。きちんと書こうとすると、いろいろ調べないとまずいだろう。大河ドラマには必ず時代考証の学者が監修するが、それでも「これは違う」とクレームが寄せられると聞く。けど、別に自分は本格歴史小説を目指すわけではない、「銀河」というタイトルから歴史ものを想像する人っているのかな。なんとなく壮大なモノをイメージするだろうけど。

 ムリして本格的な歴史小説を目指すことはないのだ、落ち着け、自分。できる範囲でいいじゃないか。

 大河ドラマは戦国ものが多く、柳之介も、ちょこっと見てきている。その辺でチャレンジしてみよう。

 なんといっても登場回数が多く、人気があるのは織田信長だろう。柳之介には、強烈な思い出がある。


 あれは高校の日本史の授業。教師が、にやにやしながら言った。

 本能寺の変の覚え方として、

「いちごパンツ(1582いちごパンツ)」

 がある、と聞いて、クラス中、苦笑に包まれた。確かに一生、忘れないだろう。

 信長がいちごプリントのパンツ、ブリーフかなトランクス、いや、当時のことだ、六尺ふんどしだろう、て、信長本人といちごパンツは無関係だ。この語呂合わせが覚えやすいというだけで。あの肖像画のあの人が、いちご模様のパンツを、なんて想像しちゃダメだってば”!


 この年号を覚えたところで、何ほどのメリットがあるのか。入試に出たりするのかな。

 その後の歴史の流れは、

 1600年、天下分け目の関ヶ原の戦い。

 ここまでは、18年。

 明智光秀は三日天下に終わり、秀吉が全国統一したが、彼が推した石田三成は人望がなかったのか、敗北、処刑。

 1603年、徳川幕府の創立。

 もう豊臣家は滅んでいたと勝手に思っていたが、大坂夏の陣は1615年。意外に長持ち豊臣家だった。本能寺の変から33年後のことである、と、年表を見なくても書けるもんね、て、メリットはそれだけじゃん。

 秀吉は、家康に関東を与えた。でこぼこの地形で、使い物にならん、どうにかできるならしてみろ、的な思いだったのでは。ところがどっこい、家康は治水に努め、使える地域にしたのだ。

 とはいえ、今でも、いや今になってからか、水害がひどいけど。

 渋谷なんか坂だらけで谷底部分が渋谷駅、世界的に有名なスクランブル交差点、豪雨があれば、あちこちの坂から大量の水が押し寄せる。

 この程度の知識で、何か書けるのだろうか。

 私だけの力では無理だ、と柳之介は思った。

 ここはひとつ、1年7組の誰かに、おすがりしよう。

 秘技、他力本願!

 何が秘技だよ、いつもの辺実逃避じゃん。

 と自分につっこむ柳之介。


 さて、誰に頼もうか、て、悩むまでもないな。

 歴史といえば、工藤千尋くどうちひろだ。

「ニュルンベルク裁判」なんてものまで知っていた。

 彼を主人公にすれば、なんとかなるに違いない、いや、なんとかなってほしい、お願い!


「頼んだぞ、工藤!」

 PCの前で、柳之介は手を合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る