13、なせばなる!

 工藤千尋の父・制作は、平凡なサラリーマンだ。無趣味だが、大河ドラマが大好きで、毎週欠かさず見続けている。その影響か、千尋もいつしか歴史好きになっていた。

「おじいちゃんみたいになっちゃダメだぞ、堅実な道を進め」

 幼い頃からしつこく父に言われてきた。祖父の耕作は、よく言えば発明家だったが、目ぼしい成果もあげられず、千尋が小学生になる直前に病死した。

 父の子供時代は当然、貧しかった。

「アルバイトをかけもちして、どうにか大学を卒業できたんだ。人間は、しっかりした企業に入るのが一番だ」

 それが父の口癖。

 祖父が生前、全力を注いでいたのがタイムマシンだった。実験段階に入ったところで病に倒れたが、幼い千尋に、

「あれは傑作だ、いつかおまえと過去や未来に行ってみたかった」

 と弱々しく言ったものだ。

 タイムマシンは祖父の実験室、といえば聞こえがいいがボロボロの物置小屋に放置中。

 千尋は最近、妙な声を聴くことがある。

 誰かがどこかで自分に命令するのだ、歴史の海へ旅をしてこい、と。


 そりゃ、僕だって歴史の現場に行ってみたいよ。

 だけどタイムマシンなんてウソくさいものを、じいちゃんは本当に完成させたの?

 10年ぶりに、千尋は物置に入ってみた。

「これがタイムマシンか」

 大きさは街で見かける証明写真のボックス程度、と思ったら、側面に「証明写真」としっかり書いてある。中に丸椅子がある古いタイプだ、使わなくなったのを払い下げてもらったのか。ますます、いかがわしい。

 椅子の前に妙な機器がずらりと並んでいる。

 いろんな機器に触ってみたが、反応なし。何度やってもダメだった。

「話にならない」

 額の汗をぬぐいながら、千尋はつぶやく。

 こうなれば、じいちゃんから直接、聞くしかないが、あの世の人と、どうやって交信するか。


「やっぱり霊能者かな」

 プロに頼もう、と早速、検索。

「オンラインで格安に会いたい人と話せます!」

 イタコの口寄せをネットでやっているという。高齢の巫女が死者の魂を呼び出し会話ができるのだ。

 オンライン口寄せを試してみることにした。BottakuriPayなら千円でオッケーと言うので、それに決めた。

 モニターに白髪を振り乱した老婆が現れる。

「じいちゃんと話したいんです」

 と告げると、何やらぶつぶつつぶやき始める。

「じいちゃん、孫の千尋だよ、もう高校生になりました。じいちゃんのタイムマシン、ぜんぜん反応しないんだけど、どうすればいいの?」

「為せば成る為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけりィイイーーー!!!」

「は?」

 どっかで聞いたこような。

「なせばなる」のことだろうか。

 要するに、やればできる。できないのは、やらないからだ。そういう意味らしい。

 ちゃんとトライしたじゃんよ。やってもダメだからイタコに頼んだのに!

「くそっ!」

 口惜しまぎれにタイムマシンを蹴っ飛ばすと、ウィーン、と鈍い音がして、何やら反応が。

 そうか。古い自動車は、蹴とばせば動くことがあるとか、これもか!

「よおし」

 やる気がもりもり涌いてきた。


 千尋は常日頃、信長に確かめてみたいことがあった。不可能だろうとあきらめていたが、もしかして叶うかも、ということで、当然、行先は本能寺。

 年号を、1582と入力。主な事件の一覧から「本能寺の変」を選ぶ。

 どんな格好をしていけばいいのか。足軽じゃ、中に入るのも不可能だろう。

 年齢的に無理がなく、信長の傍にいっれそうなのは。

 きせかえ機能は「小姓」

 なりきりモードは「森蘭丸」

 アバターみたいなものだろうか、ちゃんと変身できるといいのだが。

「よし、これで完璧」

 千尋は、「OK」を選択した。


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