10、 明日はどっちだ

 なんであんな展開になったのか柳之介は記憶にないが、気づけばカラオケビル・マイスタージンガーで、ヨーロッパVSアメリカの国際歌合戦が繰り広げられていた。

「東京だヨおっ母さん」を皮切りに「そして神戸」「雨の御堂筋」「夜の池袋」に「ミネソタの卵売り」まで動員してインターナショナルな歌合戦をでっちあげる。

「ミネソタの卵売り」が日本の歌だと知った時は心底、驚いた。1951年、70年も前の歌なのだ、まだ日本がアメリカに占領されている頃。どうして卵売りで、何故ミネソタなのか、特に養鶏が盛んな地区でもないらしいし。

 最後はシニアらしく、柳之介も時々口ずさむ「王将」「高校三年生」を登場させ、歌いたい気持ちがマックスに。辛抱たまらずカラオケに出かけ、歌いまくってスッキリしたのだった。

「あー、楽しかった」


 ひとりカラオケを堪能し帰宅した柳之介は、ハッと我に返った。

 余韻に浸っている場合ではない、「銀河」をこの先、どうするのだ?

 ジャンルも決めずに走り出し、タイトルにふさわしく、どうにか銀河にワープしてスペースバトルに変身合体、超時空妖怪?

 呪怨神社なんて罰当たりなものに話が飛び、角田がすんでのところで丑の刻参り、をさせずに済んでほっとした。ほっとしたが、なんでまたロボット型カラオケビルにワープしちゃったのか。

 そういえば「マスラー総統」も相当に恥ずかしい。登場させるのにはためらいを感じた。そこまであの話に寄せなくても良かったのだ、日露戦争が元ネタだったのだから。あの時、たまたま「ですます体」について考えており、デスラーときたらマスラー、なんてイ―ジー過ぎる!

 オソロシヤの戦艦を料理名にしたせいで、やたら腹が減ってくるし、もう。ああ、ピロシキ食いたい。

 迷走するうちに早くも1万字も書けてホクホクしているのが本音だが、このまま宇宙の迷子になってはいかん!

 銀河銀河銀河なのだ!

 でも、銀河ってなんだっけ?

 ああ、もう何もわからない。


 結局、自分には才能がない。

 500字のエッセイが関の山だったのに、大長編を書きたい?

 信長の野望どころじゃない、「ボーイズビーアンビシャス」、と、あさっての方向を指さしていたクラーク博士の銅像を思い出す。「少年よ大志を抱け」と訳されているが、「アンビシャス」とは「野心的であれ」くらいの意味らしい。

 私の場合、ド素人の高望み、てとこかな。

 とにかく、基本がなってtない、と柳之介は思う。

 1年7組の面子を使うことで、一気に45人のキャラを確保。

 角田を出したのはいいとして、その特徴について全くふれていない。嫉妬を感じていた貴村じゃっくについては、ある程度、書いた。他人から羨まれるだけあって、背は高くなかったけど、美少年だったのは確か、爵という名は、森鴎外のお孫さんから拝借した。

 さすが文豪、鴎外の孫。一般人が爵なんて名付けたら完全に名前負けだが。母親は、鴎外の娘で耽美小説で有名な作家の森茉莉、間違いびない血筋で、まるで水戸黄門の印籠だ。

「爵?」

 なにその名前、と笑う普通の人々を前に、

「ええい、頭が高い。こちらをなんと心得る、天下の森鴎外どのの直系であらせられるぞ!」

 助さん角さんが決め台詞を吐く。


 いいぞいいぞ、て。

 またもや、はっと我に返る柳之介。

 一体、「銀河」は何処へ向かうんだああ!!!???

 畳の上でのたうち回る柳之介であった。

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