9,いわゆるひとつの歌合戦

 その日の夜。

 1年7組の面々が盛り上がったVIPルームにはヨーロッパ各国の大使館員が集結していた。

「ほにゃららZ」が視聴率80%をたたきだしたというスペイン。その大使館員アントニオも子供の頃、熱狂したのだ。来日後、どうしてもここで歌いたいと、しつこく予約にトライしたのだった。

 彼の奮闘に敬意を表して、まずはZの主題歌を歌ってもらった。アントニオは涙を流さんばかりに感激して、♪空にそびえる~と熱唱。


 次は、マイスタージンガーの故国、ドイツのヒルダ。

 基本、ご当地ソングの披露ということで、


 ♪ あれがあれがブランデンブルク門

 記念の写真を撮りましょうね


「ベルリンだヨおっ母さん」を熱唱する。

 続いてイタリアのマルコが、


 ♪ ローマ 泣いてどうなるのか


 と、こぶしを利かせる。


 ♪ ああああ ロンドンは 今日も 霧だった


 EU脱退直後は元気がなかったジョージだが、各国大使館員との友情に変わりはない、思い切り歌った。

 パリジェンヌのシルヴィはしっとりと、


 ♪ こぬか雨降る シャンゼリゼ


 ヒルダのスマホが鳴った。

「え、これから? ちょっと待って」

 アメリカ大使館の友人が、一緒に歌いたいという。アメリカの乱入か、と渋る者もいたが、3人なら席を詰めればいいか、とOKすると、少したって、どやどやとアメリカ勢がやってきた。

「よっ、ヒルダ。皆さん、おじゃまします、ボブです。あいさつ代わりに早速」

 ロス出身、金髪巨漢のボブがマイクを握り、


 ♪ はるばる来たぜ ハリウッド


 調子外れにがなり立てると、アフリカ系のミシェルが、


 ♪ コココココケッコー コココココケッコー

 私はケンタッキーのチキン売り


 どこかのCMみたいな歌だ。

 マレーシアがルーツのルシアは、


 ♪ ああああ マラッカ海峡 夏景色


 なんて騒々しいの、とシルヴィは眉をひそめたが、アメリカ勢には負けん、と、再びアントニオが、


 ♪ どうせ気まぐれスペインの

 夜のバルセロナ


 たたみかけるようにアイルランドのマイケルが、


 ♪ ダブリンの春は 何もない春です


 ヨーロッパVSアメリカの歌合戦は、さらにヒートアップしていく。


 一方、他の部屋でも、Zに熱狂した、かつての子供たちが、主題歌集で超盛り上がり。

 たまたま予約を取れたシニア世代も、


 ♪ 吹けば飛ぶよな将棋の駒に


 ♪ 赤い夕陽が校舎を染めて


 などなど、ナツメロを楽しんでいる。


 いやあ、歌って本当にいいものですねえ。




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