7、朝日のようにさわやかに

 白装束で頭にろうそくを立て、貴村を呪いながら藁人形に釘を打つ。

 そんな自分の姿を思い浮かべて、角田はぞっとした。

 ,あまりにもおぞましく、醜い。彼を恨むのはお門違いだ。

 無理してあの高校に入ったのが間違ってたんだ。入学してからが大変だよ、という担任の言葉は本当だった。

 今いる呪怨神社は、西郷艦長が言っていたのとは別じゃないかな。丑の刻参りで商売するような所を、あの人たちが守護神社にするとは思えない。時空が違うみたいだし、きっとそうだよ。

 弔い合戦をさせてくれと懇願していた九里艦長、熱い友情にぐっときた。僕は友人を失ったことはないけど、あんなに思える友人はいるだろうか。

 あれこれ考えていると、さっきの女性か、出口に向かって歩いてくる人影が。サングラスにマスク、トレンチコート姿、なんともいえない悪い気のようなものを漂わせている。

 丑の刻参りを本当にしたのかは分からないが、好感は持てない。自分も恨みを深めていったら、あんなふうに感じ悪くなるのだろうか、嫌だな。


 あれこれ考えているうちに、空が白んできた。

 鳥居に夜明けの光が当たると、案内板がくるりと回転し、「願掛神社」の表示に変わった。開所時間も「日没から日の出まで」が「夜明けから日没まで」に。

 なんだ、これ!?

 角田は呆気あっけにとられた。

 二毛作経営というやつだろうか、昼はカレー、夜は飲み屋と、昼夜で業態を変える方式。商魂たくましいにもほどがある。

「ぜってー違うわ」

 思わず角田は声に出して言った。

 ここは、ミサカ艦隊の守護神社とは無縁だ、と確信した。

 と、ひとりの若い女性が、神社に近づいてきた。

 朝日を浴びて、晴れやかな表情だ。

 鳥居の前で深く一礼し、社内に歩を進める。

 どんな願掛けをするのか。自分のためか、あるいは親しい人の?

 それはわからないが、澄んだ心でお参りに来たのは確かだろう。


 帰ろう、1年7組へ。

 角田は、クラスの皆が、たまらなくなつかしくなった。


 その頃、1年7組では、大騒ぎになっていた。英語の授業が終わっても、姿が見えない角田。

「どうしたんだろう、どこに行ったんだよ」

「おーい」

 机の下を覗き込むやつもいる。

「バーか、ンなとこにいるかよ」

 その時、教室の後部ドアが開いた。ひょいと顔を出したのは、

「角田!」

「おお、戻ってきたか」

 皆がほっとする中、

「角田くん」

 貴村が走り寄ってくる。

「良かった、心配したよ」

「心配、僕を?」

「もちろんだよ」

 無邪気な笑顔。少し前の角田なら、嘘くさい、と拒絶しただろうが、今は違う。気遣ってくれたことに心から感謝できる自分がいた。

「ねえ角田くん」

 貴村が、にこにこしながら言う。

「今日の放課後。あれを見学できることになったんだけど、角田くんは予定、大丈夫?」

 と、クラス委員の佐藤が、

「出席順に4班に分けたよ。一度に全員は無理だからさ」

「あれって、ああ、あれのことね」

 角田は合点がいき、にっこり微笑んだ、

「もちろん行くよ!」

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