3,スペースバトルシップMISAKA

 ♪ ルールールー ルールールルルー

 果てしなく意味もなく広がり続ける宇宙。そうだ、宇宙は生きているのだ。


 銀河世紀1905年、とある太陽系の一画。

 宇宙戦艦ミサカのメインブリッジに、西郷艦長以下、全クルーが集結していた。重苦しい空気が漂う中、

「いよいよ決戦でごわす」

 真っ白なあご髭をたくわえた艦長、西郷山盛やまもりが静かに言った。お国言葉が抜けない彼のために、同時翻訳機がはたらき、以下、共通語で総員に伝わる。

 銀河帝国オソロシヤの最強艦隊「ストロガノフ」との決戦が迫っていた。主力巨大艦「モスコー」の他に、ピロシキ、オクリョーシカ、ソリャンカ、ウハーなどの精鋭が揃う無敵艦隊で、いくつもの弱小惑星の艦隊が殲滅されてきた。

 辺境太陽系の地球の命運をかけて、あみだくじで派遣を決められてしまったのが、この艦隊であった。

「艦長のクジ運の悪さは有名だからな」

「副艦長にひかせりゃ良かったんだ」

「急に熱が、つって逃げたんだ、あの人らしいよ、もし貧乏くじを引いたら、自分のせいにされるから」

 クルーのひそひそ話を、副館長の大久保外道そとみちは聞こえないふりをしていた。


「いてっ!」

 床に腰を打ち付けて、青木が悲鳴をあげた。

 何事だ、とクルーが振り向く。

 メインブリッジが、いきなり狭くなった。

 1年7組の45人が、まとめてワープしてきたのだ。

「なんだ、貴様らは!?」

「オソロシヤの回し者か」

 銃口を向けられ、生徒たちはビビったが、

「待て待て。見れば皆、学生服着用。顔も平たいし、我が同胞の若者に間違いあるまい」

「そうなんです!」

 クラス委員の佐藤しゅんが、満面の笑顔で進み出る。

「皆さんを応援したいという僕らの力が結集し、ワープしてきました!」

 相変わらず調子のいいやつだ、と、皆はあきれたが、疑われて殺されるよりはましだ。

「そうだったのか、ご苦労」

 西郷は感激の面持ちだが、疑り深い大久保は、

「何処から湧いて出たのだ。どうも信用できんな」

 まあいいじゃないか、と西郷は笑顔になった。

「ここは宇宙戦艦ミサカだ。三つの坂と書いて三坂」

「三坂?」

 浅利がくすっと笑った。

「何が可笑しいんだ、失礼だろ」

 クソまじめな青木が注意すると、浅利はにやっとして、

「こないだ、いとこの結婚式で聞いた」

 新郎の上司が、祝辞の中で、

「人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂、そして、まさか」

 と言ったのだという。

「まさか、か」

 阿部も大内も、どう反応していいか分からない。まだ10代半ばの彼らに「人生のまさかの出来事」など想像できない。

 その時、ドーンという衝撃とともに艦が大きく揺れた。辛くも交わしたが、攻撃されたのだ。

「まさか、早すぎる!」

 西郷艦長が青ざめる。

「ミサカの諸君、ひさしぶりだねえ」

 オソロシヤのマスラー総統の姿が、メインスクリーンいっぱいに映し出された。

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