2,流れ流れて異世界の

 水増し大作戦は失敗に終わった。安易に文字数を増やそうとしたのが間違いだ。やはり汗かきベソかき歩いていくしかない、牛の歩みであっても。

 そう初心に返るが、書けない苦しさを振り払うすべがない。堂々巡り、山手線のようにぐるぐる同じところを回っている。今日だけでも一体、何周したのだろうか。一回り55分くらいだっけ。新駅ができた分、時間がかかるようになったのか? なんて、無意味な文字数稼ぎはやめろ!

 自分を叱咤してみるが、悩みは尽きない。


 ♪ どうすりゃいいのさ思案橋


 またもや古い歌の文句が出てくる。身に染みた歌謡曲魂は、ちっとやそっとでは払いのけられそうにない。

 そういえば、処女作ポエム「誘惑」も、


 ♪ やめろと言われても


 ヒデキのヒット曲の替え歌に過ぎなかった。若い人にはわからんだろうと、ついズルをしてしまった。

 ダメだ。このままではダメだー!!!

 柳之介は、頭を掻きむしった、いや、そうしたかったが頭髪ゼロの悲しさ、両手で頭を激しく撫でまわす妙なシニアにしか見えない。

 やがて、柳之介は立ち直った。別の表現をすると、居直ったのだ。こうなりゃ徹底的に歌を利用すると決めた。


 そうだな、まずは主題歌でも作るか。未だにジャンルが決まらない大河小説「銀河」だが、テーマソングを設定することによって小説の内容が導き出されるかも。

「銀河」が出てくる歌といえば?


 ♪ 銀河銀河銀河 銀河銀河銀河

 たそがれの銀河


 銀河に、たそがれがあるのか?


 ♪ 待ち合わせて 歩く銀河

 肩を寄せて指を絡ませ ふたりの銀河


 ラブラブすぎる、これでは恋愛小説に限定されてしまう。


 ♪ 若い二人が 命を懸けた

 銀河の恋の物語


 またまた恋の歌。そもそも全部、大昔のヒット歌謡曲だ、「銀座」を「銀河」に変更しただけ。「たそがれの銀座」「ふたりの銀座」「銀座の恋の物語」。まだ真昼間なのに、カラオケに行きたくなるではないか。そんな自分にますます嫌気がさす。

 私には才能がない、それは骨身に染みてわかっている。だが、どうにかして長編小説が書きたい。死ぬ前に一作だけでも。


 ああ、逃げてしまいたい。

 誰でも多かれ少なかれ、同じことを考えるのかもしれない。

 異世界ファンタジーが流行るのがわかる気がする。ストレスだらけの世の中だ、みんな現実逃避したいんだろうなあ。

 銀河の果てまで飛んでいけ、なんて歌もあったな。

「あっ」

 銀河って宇宙だよね。我々の世代にはなじみの言葉があった。

 柳之介は、大喜びで叫んだ。

「ワープ!」

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