第一章 はてしなく遠い道

1,GoGo水増し大作戦

 プロローグ、登場人物紹介は、なんとかクリアした。

 いよいよ本編に突入である。記念すべき第1話、ここは重要だ。柳之介はめちゃくちゃ緊張した。

 まだジャンルが決まらないのに書き始めてしまうなんて無謀すぎるが、そのうちなんとかなるだろう、たぶん。

 ジャンルかあ。

 高校のクラスの連中が出てくるのは確かだ、ひょっとして学園ドラマか。となると恋愛もありだが、男子校だから校内恋愛は禁止、相手は他校の女子でないとまずい、BLだけは避けたい。


 1年7組の朝。

 担任の梅谷先生が教室に入ってきて出席を取る。

「青木」

「はい」

「浅利」

「はい」

「阿部」

「はい」

「内田」

「はい」

「大内」

「へーい」


 5人書いただけで10行が埋まり、柳之介は気をよくした。これだけで原稿用紙半分、200字は稼げたはずだ。この調子でいけば、出欠だけで大幅に字数を水増しできる。

 確認のため点呼部分の10行だけ表示させると、画面には「41字」。

 41? バカな。10行埋めたんだから200字だろう!

 いや、違う。柳之介は、はっと気づいた。

 20字×20行、400字詰め原稿用紙に書くのなら、確かに10行、200字分埋まる。が、これはネット小説なのだ。あくまで実際に打ち込んだ文字数しか表示されない。だから、

「青木」

「はい」

 は2行ではなく、「」込みで8文字にしかならない。


 ひとり8文字。ということはクラス45人で360字。10クラス450人でも3600字にしかならず、3学年合わせても、せいぜい1万ちょっと。

 長編というのは10万文字程度を指すようだから、市内の同規模校を10集めて、ようやく10万文字。道は遠い。それに10クラスもあったのは柳之介の高校時代で、今は少子化、1学年40人で8クラス、もっとたくさんの学校で点呼させないと。

 つーか、その小説は「××」「はい」の羅列に過ぎない。いわば「点呼小説」だ。

 点呼小説「銀河」?

 誰がそんなもの読みたいだろう、自分だって読みたくない、その前に書きたくない!

 点呼で水増し作戦、大失敗!

 柳之介は頭を抱えた。


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