29《それは膨大ゆえに……(6)》

 リューセイは、よろけながらも立ちあがった。そして大剣を構えなおすと、黒竜を警戒しながらどう切り抜けたらいいのかと考えはじめる。


(ハァハァ、黒竜を倒す以外の方法があるとして。それが、なんなのか分かればいいんだけどなぁ)


 だが、そんなことを考えている余裕すらない。


 そう黒竜がドスドスと地面を踏みならしながら、とてつもなく大きな音を辺りに響かせリューセイのほうへと向かって来ていたからだ。


 それを見てリューセイは、とっさに体がうごき黒竜から遠ざかると近くの岩陰にかくれる。


 そう、むやみに黒竜に挑むのは無謀だと思ったからだ。


「ムッ、なぜ逃げる!? まさか怖気付いたのではないだろうなっ!」


 そう言うと黒竜は、「ガオォォォォーン!」とおたけびをあげた。


 リューセイは驚き身をすくませるも、大丈夫だと言い聞かせ気持ちを落ち着かせる。


「クッ、いったいどうしたらいいんだ」


 そうこう考えるが、いっこうに何も思い浮かばない。そして気持ちばかりがあせる。


 片や黒竜は右手を大きく振りあげ、天井から突き出ているとがった岩に思いっきり振りおろす。すると、とがった岩にあたりくずれおちる。


 そのとがった岩は、リューセイが隠れている岩壁にあたった。


 だがしかしその岩壁がくずれるも、そこにリューセイはすでにいない。


 そうリューセイは危険を察知し、黒竜の死角をつきこの場から遠ざかる。そして、別の岩陰に隠れて身をひそめていたのだ。


(ふぅ〜、危なかった。でも、このまま逃げてばかりもいられない。だけど、ん? あーそういえばっ! ほかにも倒す相手がいるじゃないか。

 そもそもこんな目にあっているのも、ソイツ謎の声のせいだしな)


 そう思いリューセイは、ニヤリと笑みを浮かべる。そして体勢を整えると、大剣エクニスカイザーを構えなおした。


 そしてリューセイは、恐る恐る黒竜の前に姿をあらわす。


 黒竜はリューセイがおらず、イライラしながらキョロキョロと周囲を見まわしていた。


 するとリューセイが目の前に立っていたため、コケにされたと思い怒りをあらわにする。


「グヌヌヌヌッ、よくもワレをコケにしてくれたなっ!」


「へっ? って、おいっ!」


 リューセイは、黒竜が言っていることが理解できず困惑した。


 だが、今はそんなことを考えている余裕がないと言い聞かせ体勢を立てなおす。そして、大剣を両手で握りなおすと頭上にかかげた。


(今度こそ、)


 それと同時に、倒すべき相手謎の声のことを思い浮かべる。


(この幻想の世界を壊すためには--)


 そう思い両手で大剣をつよく握りしめる。すると大剣をおおうように光りだした。


「ほう。面白い!」


 怒りをあらわにしていた黒竜だったが、それを見て冷静さをとりもどす。そして魔法を展開しようと詠唱を唱えはじめる。


 だが時すでにおそし。リューセイの脳裏に技名が浮かんだ。


(よしっ! これならいける)


 《幻竜秘剣 水渦の刃!!》


 そう叫ぶと、さらに大剣が光りはじめる。そして大剣から光が上空に放たれると、青い大きな魔法陣が真上に描かれた。


 そこから青い竜が姿をあらわし、渦をつくるように旋回しながら下降する。


 するとまわりが大きく揺れ、ゴオォォッとうなり辺りに響きわたった。


 青い竜は旋回していたが、急降下し大剣に吸い込まれるように姿をけす。


 その直後、大剣が青くまばゆい光を放った。


 それを確認すると、リューセイは大剣を握りなおす。そして謎の声に攻撃するべく黒竜に目掛け思いっきり大剣を振りおろした。


 すると大剣から青い竜が放たれる。


「いけぇー!」


 その青い竜は粒子となり鋭い水の刃になる。そして回転しながら大きな水の渦へと変わっていった。


 黒竜は、魔法を唱えていたためにうごけない。


(グッ、これは……まずい、)




 その頃、謎の声はと言うと。


『フフッ、まぁいいでしょう。この世界が壊されたとしても。この私が、彼の息の根をとめればいいのですからね』


 そう言い余裕な表情でその戦いをみていた。




 場所はもどり。鋭い刃とかした水の渦は、だんだんと大きくなるにつれて鋭さが増していった。そして、その鋭い水の渦は動けない黒竜に勢いよくあたる。


 黒竜は何もできず激痛と悔しさのあまり、「ギャオォォォォォォーン!!!!!」と鳴き叫んだ。


 その鋭い水の渦が黒竜の体をつらぬき、さらに速度を増していった。そしてその鋭い水の渦は、そのまま天井へと急に上昇しはじめる。


 天井を切り裂くように鋭い水の渦は回転し続けた。そして、何かを察知したかのようにその場で静止する。


 すると、さらに渦をつくるように横に大きく回転しはじめた。


「ん? これって!」


 とその時、リューセイの脳裏になぜかある言葉が浮かんだ。そしてその言葉をさけぶ。


 《幻水竜爆殺!!》


 そう言うと、天をつらぬくように大剣を高くかかげる。すると大剣から青い光が水の大渦に向かい勢いよく放たれた。


 その青い光は、大きな水の渦の中央をつらぬき吸いこまれるようにきえる。と同時に、その水の渦に電気がはしった。


 そして水の渦が、一気に凝縮されたと思った瞬間。


「バアァァーン!」


 弾けるような大きな爆発音が、地響きとともに辺りに響きわたる。すると、激しい爆風とともにこの幻想の世界が吹きとばされた。


 そしてリューセイは、そのまま現実の世界へととばされる。




 その頃、願望の宝玉がある洞窟の最深部では__


 リューセイが放った攻撃は、謎の声……いや、余裕をぶっこいていた謎の影にあたる。そして、そのまま近くの岩壁に激突した。


「クッ、……。ま、まさか--」


 すると謎の影は、リューセイの攻撃をモロにうけ術が解けてしまい姿をあらわす。


 それに気づき、この場を離れようとした。だが自分の目の前に、リューセイ達が立っていることに気づきこの場から動けなくなる。


 そしてリューセイ達は、身動きがとれずにいるその者謎の影のことを見おろしていたのだった。

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