12《堪忍袋の緒が切れる》
ここは、ランズベール村の北東に位置する森の近くにある草原。
あれからリューセイ達は、ルルカが監視していることを知っていたが、気づかないフリをし魔獣と戦うための準備をしていた。
そうもう一つのクエストとは__
必ずルルカは五人を尾行するから、それに気づいていないフリをして近づき仲間となり一緒に行動する。
__という内容だ。
だがなぜルドフは、そのように言ったのかというと。
ルルカをムリにどうこうしようとしても、自分が納得しないかぎり、すんなり言うことを聞かない。と思ったからである。
それと、一人で行動させておくのは危険だと判断したからだ。__てか、ただ単に過保護なだけである。
アベルディオは、イシスに初歩の攻撃魔法の使い方を教えていた。
つえを構えるとイシスは魔法陣を描き唱える。
そして魔法陣から、大きな炎の球体が現れると勢いよく放たれた。すると、狙ったようにクライスのほうに向かう。
それを見たイシスは、どうしようかと思いオロオロとする。
アベルディオもまたこれはまずいと思い、水晶をかかげると魔法陣を描き詠唱し始めた。
一方クライスはそれに気づき、とっさに両手で大剣を大きくふりかぶる。
そして、自分のほうに勢いよく向かってくる、大きな炎の球体に狙いを定め力一杯ふりきった。と同時に、大剣の刃が大きな炎の球体をとらえる。
そしてその大きな炎の球体は、はるか遠くのほうに飛んでいき落下すると爆発した。
「イシス!? どういうつもりだ。俺を殺すつもりか!!」
クライスはイシスを鋭い眼光でにらみ付ける。
「クライス、ごめんなさい。そんなつもりはなかったのです。ですが、この魔法って一番よわいはずでは?」
クライスにあやまったあとイシスは、つえに視線を向けた。
『ハァ〜』とため息をつきクライスは、軽く手を上げ「仕方ない。次は気をつけろよ」と言いふたたび大剣をかまえるとスブリを始める。
イシスとアベルディオは、それを確認すると『ホッ』と胸をなでおろした。
「イシス。もうすこし魔力をおさえられないのか?」
「アベルディオ。そう言われましても。魔力の加減がわからないのです」
どうしたらいいのかとイシスは困惑する。
「なるほど。そうなると。本当に、初歩から教えないとムリそうだな」
そう言われイシスは苦笑した。
その後アベルディオは、一から魔法についての説明をする。
そしてイシスは、それを真剣な面持ちで聞いていたのだった。
片やリューセイは、ユリエスにクロスボウの使い方を教えていた。
「んーこのクロスボウは、珍しい仕組みのものみたいだ」
目を輝かせながらリューセイは、クロスボウを念入りにチェックしている。
「それじゃ。それの使い方ってわからないの?」
ユリエスは大丈夫なのかと思い不安な表情を浮かべた。
「あっ、いや心配ない。多少だけど使い方ぐらいならわかる」
「よかったぁ。で、どう使うの?」
そう聞かれリューセイは、クロスボウの説明をする。
__このクロスボウの形は、普通とあまり変わらない。だがクロスボウの中間に、大きなクリスタルが埋め込まれている。
そのクリスタルに魔力をためておき、攻撃をする時にその魔力を使い矢を放つ。
攻撃方法は……。普通の矢をクロスボウに軽くのせ、スコープをのぞきながら敵に狙いを定める。
台座に描かれている魔法陣に手を添えながら、《シューティング!!》と唱え矢を放ち的にあて攻撃するのだ。
だがクロスボウには欠点がある。
・近い距離の攻撃ができない。
・いちいち矢を置き攻撃するため時間がかかる。
・手持ちの矢がなくなると何もできない。
その他にもあるが、今はこのぐらいで__
リューセイは話を終えると、ルルカのことが気になった。そのため、気づかれない程度にチラッとルルカのほうを見やる。
(まだいるみたいだ。このまま洞窟までついてくるつもりか?)
そうリューセイが思っているとユリエスは、クロスボウの使い方を聞き使ってみたくなった。
「ねぇ、リューセイ。--ん〜なんか別のことを考えてるみたい。どうしよう」
そう思いながらクロスボウを持ち、スコープをのぞくとクライスをみる。
矢は説明の時にリューセイが装着したままであり、なおかつ水晶に魔力がすこしだけたまっていた。
ユリエスは矢が装着しているかどうかも確認せずに、いつものノリでクロスボウの台座に描かれた魔法陣に手を添える。
《シューティング!!》
そう唱えると、矢が勢いよくクライスのほうへ放たれた。
「え!?」
ユリエスは驚きクロスボウを地面に投げおき、どうしようかとあたふたする。
ユリエスの声を聞いたリューセイは、その光景をみて間に合わないと思いつつも、体が反射的に動きかけ出していた。
アベルディオとイシスは、「あー!?」と叫び互いに魔法を放とうとする。
だがその時クライスは、眉を『ピクッ』と動かし顔を引きつらせながら瞬時に大剣を持ち振り上げた。と同時に、大剣を並行にすると思いっきり振りおろす。
そして、飛んでくる矢をあっさりとたたき落とした。
四人はそれをみると、よかったと思い『ホッ』と胸をなでおろす。
だがクライスは、ユリエスのほうを向くなりにらみ付ける。
「ユリエス!? なんのつもりだ。俺になんのうらみがある!」
「あーえっと。ごめん。べ、別にうらみはないんだ。ただ、間違っちゃってさ」
ユリエスはビクビクしながらうしろに退いた。
「なるほどな。間違ってか、」
「う、うん。そうそう。だから、ホントにごめん!」
手を合わせながらユリエスはあやまる。
「て、おい! すんなり。はい、そうですか、って言うわけないだろうがぁ!!」
クライスは怒りをあらわにし、ユリエスのほうに歩みよった。
それをみたユリエスは、「ヒッ!?」と声をあげうしろを向くと猛ダッシュで逃げる。
「おい待て、ユリエス。逃げるんじゃねぇ!」
そう言いながらクライスはユリエスを追いかけた。
リューセイとアベルディオとイシスは、二人をとめるかほおっておくか、どうしたらいいのかと悩んでいる。
片やルルカはそんなリューセイ達をただ眺めみているだけだ。
その後クライスは、すばしっこいユリエスをつかまえるのに時間がかかり洞窟にいくにも時間に余裕がなくなる。
そしてリューセイ達は、今日はあきらめ日を改めることにして宿屋に戻ったのだった。
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