試練の章

13《魔王かぶれと心配する各々の家族》

 ここは暗くジメジメした、はるか最果てにある地底の最下層。


 そこには異様なほどの悪しき空気が漂い、「ウゴオォォォォーン!」と奇妙な鳴き声が辺りに響き渡っていた。


 その鳴き声はこの最下層の奥深くにある、いかにも魔物が潜んでいそうな建物の中から聞こえてくる。


 その建物に誰もはいれないよう扉が固く閉ざされていた。


 そう二枚の魔法陣が描かれた大きな呪符が、扉にバッテンに貼られている。そのため、この建物全体が封印されていた。



 いかにもヴィジュアル系よりのパンクのような黒い衣装を着た男性と黒髪の魔族の女性が、じーっとこの建物を眺めたたずんでいた。


「おい、メリューサ。まさかここまで来て、足止めってことはねぇだろうな!」


 そう言い鋭い眼光でにらみ見る。



 この男性はタイガ・スターナイツ。銀色に紫メッシュのショートヘア。


 貧しい村の生まれではあるが、ある本がきっかけで魔王に憧れる。


 タイガは、ベルゴーグ大陸からはるか北西に位置する、ラダル大陸の西北西にあるルーベルの村で生まれ育った。


 その村は、ラダル大陸の中央に位置する王都ネルファスの領地である。


 この王都ネルファスは、自国が支配する領地に重税をかけていた。そうもちろん、ルーベルの村も例外ではない。


 そのためか村人たちは、毎日のくらしがやっとだった。


 そう小さなころからタイガは、このくらしをもっと豊かにできないのかと思っていたのだ。


 そんな時__そう約五年前。村のある家の掃除を手伝っていた時に勇者と魔王のことが書かれた物語の本をみつける。


 そして物語に興味を持ち、その本を持ち主にもらい家に戻り読んだ。


 タイガはその本を読み終えると、なぜか勇者ではなく魔王に憧れる。


 そうその物語を読み、今の世界を変えたいと思ったからだ。


 だがなぜ魔王なのか。それは世界を救う立場の勇者じゃ、世界を変えることができないと思ったからである。


 その後タイガは、魔王となるために村を出て各国を転々と旅をしながらひたすら剣と魔法の勉強をした。


 そして約二年前。この世界の南西に位置する小さな孤島バギルで、魔族がひっそりと隠れ住む村を発見する。


 タイガはそこで二年もの間。その魔族たちに自分の強さを示し信頼を得ると、魔帝と呼ばれるようになった。


 だがタイガは魔王になりたいため、この呼び名を嫌っている。


 その後この場所のことを知り、自分の側近であるメリューサとともにここに来ていた。



「タイガ様。申し訳ございません。まさか魔族の帝都が、こんな地下にあるとは思いもよらず。それにこんなに厳重に封印がされているなんて」


 メリューサは申し訳なさそうにうつむいている。



 この魔族の女性はメリューサ・サキュア。魔族と人間とのハーフだ。そのため、普段は人間に姿を変えタイガとともに行動している。



「ああ。おまえだけが悪いわけじゃない。俺も、ちゃんと調べてくるべきだった。だが、クッ、」


 悔しさの余りタイガは、唇をかんでしまいそこから血がにじみ出てきた。


「それはそうと。これからどうなされますか?」


「ふぅ〜、そうだな。ずっとここにいてもしょうがない。……出直してくるか」


 そう言われメリューサがうなずくと、二人はこの場を離れる。


 そしてその後二人は、帝都の封印を解くための方法を歩き調べるのだった。




 場所は移り__ここはダインヘルム国。


 数名の年配の男女が、ハルジオン公爵邸の客間に集まり話をしていた。


 そうリューセイ達の家の者たちである。


「うむ。やはりアベルディオ達はみつからぬか」


 そう言いながらアベルディオの父親は、どうしたものかと頭を抱えていた。



 このうす紅色の髪の男性は、アゼリオス・ハルジオンと言いアベルディオの父親である。



「アゼリオス様。わが愚息が、とんでもない事をしでかしてしまい。本当に申し訳ございません」


 そう言いうす紫の髪の男性は、冷や汗をかきながらペコペコとアゼリオスに謝っていた。



 この男性はナファス・ピオーネ。クライスの父親ではあるが、さほど似ておらず弱々しく見え痩せている。



「ナファス様が、あやまる必要などありませんわ。あやまるべきは子供たちのほうです」


 その女性はイライラしていた。



 この黄色の髪のキレイな女性は、リリア・アルキオと言いユリエスの姉である。



「その通りです。本当に、わが子ながら--何を考えているのか……」


 そう言うと桃色の髪の男性は、あきれ果て「はぁ〜」っと息をもらす。



 この男性は、イディルス・レインロット。イシスの父親だ。



「それを言うなら。うちのリューセイも、」


 片手で頭を抱えながら茶髪の男は、どうしたものかと頭を悩ませる。



 この男性は、リオス・ランベルン。リューセイの父親だ。



「これだけ探しても見つからないと言うことは……。もう既に国の外へ出たかもしれんな」


 アゼリオスは窓の外へ視線を向ける。


「ええ。間違いなくそうかと、」


 そうリリアが答えるとアゼリオスは、何かを決心し『よし!』と納得した。


「子供たちだけでこの国を出て旅立った。それも勇者になると置き手紙を残してな。ましてや四日も戻って来ていない」


 そう言いアゼリオスは、ニヤリと笑みを浮かべまた口を開き話し始める。


「それでだ。どうだろう。あの子供たちがどこまでやれるか見届けるというのは?」


「ですが。本当に大丈夫でしょうか?」


 イディルスは心配で不安な表情になった。


「確かに、そうかもしれない。アゼリオス様の言うように……。それにこの国で、ただ過ごしているより。子供のためにも良いのかもしれん」


 そうリオスは言いみんなを見まわす。


 それを聞きアゼリオスがうなずくと、他の三人はすこしためらったが「そうだな、」と言い納得する。


 そしてその後アゼリオス達は、今後どうするかを話し合っていた。

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