第9話


数週間後の金曜日。

私は夕方の授業を終え、電車でとある駅前のカフェに向かった。


「お、優ちゃん久しぶり!」

カフェで待っていた相手は、私の姿を見た途端に立ち上がり、「ここだよ~」と手招きしてくれた。その懐かしい姿に、つい口角が上がってしまう。

「久しぶりだね、彩乃。」

私は彩乃―――高校時代の友人で、私がこの前連絡を取ったその人―――に挨拶し、彼女の向かいの席に座った。

来たカフェは、高校3年間よく通っていた場所だった。このカフェから少し歩いた場所が高校ということや、ここのドリンクの種類が豊富だったこともあり、私はよく、ここに入り浸っていた。彩乃とも一緒に通っていたので、このカフェは喋ったり勉強した、思い出の場所になる。


「いやぁ~、急に優ちゃんから連絡が来て、ビックリしたんだよ!」

思い出話がひと段落した後、彩乃は思い出したように言い始めた。今思うと、彩乃に連絡をしたのは数カ月ぶりで、大学に通うようになってから一度も話していなかった。




「さて…優ちゃん、今回はどんなお悩みなのかな?」

彩乃はニヤニヤしながら、それでも心配そうな目をして聞いてきた。

私は、「あのね…」と、大学生活で起こった告白からの一部始終を話した。

今まで、人に恋愛の相談をしたことはなかったが、なぜか彩乃には伝えられた。彩乃も、ニヤニヤしていた表情を消し、ずっと優しい表情で聞き続けてくれた。

「……という訳でさ。」

私は話し終わると、注文したフラペチーノを一口だけ飲んだ。少し枯れた喉が潤う感覚がする。

「要するに、過去のことで悩んで、素直になれないってことね。」

彩乃は手を顎に当て考え込む仕草をした。が、彼女はすぐに私の方を向いた。

「優ちゃん。きっとその人は、優ちゃんのことが本当に好きだよ。」

「なんで分かるの?」

「その人は、毎週かかさず月曜一限の授業に出て、優ちゃんと授業に関係する話だけでもできているんでしょ? それってさ…まだ、その人も優ちゃんと話したい、分かり合いたいと思ってる証拠なんじゃないかな?」

あくまで持論だけどね、と、彩乃は付け足して言った。


私の頭には、最近の新城くんの様子が浮かんでいた。

―――毎回かかさず授業に出てくる彼の姿。

―――真面目に取り組んでいる姿。

―――私に話しかけてきた時の表情。


「優ちゃん。その人、まだ諦めてないかもしれない。」

彩乃は、私の目を見てハッキリ言った。彼女の目は、高校の時から変わらず力強かった。

「…ありがとう、彩乃。」

私は、彼女の目を見て、首を縦に動かした。「私、頑張ってみる。」

「うん、頑張って!」

彩乃は、嬉しそうに笑って言った。

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