第8話


昔から、「誰かのため」という言葉が、口癖だった。自分が頑張れば、誰かが幸せになる。自分が何かをすれば、きっとどこかで誰かの役に立てる。そんな思いを常に背負って過ごしていた。


そんな生活に変化が訪れたのは、高校2年の時だった。

「加藤が好きだ。」

放課後、テスト勉強で残っていた私は、当時同じクラスで気になっていた人から告白を受けた。

この時私は、人生で初めて「好きだ」と言われた。

「え?」

「俺、加藤が好きなんだ。付き合ってくれないか?」

「わ…私も、気になってた…! 付き合って欲しいです。」

私は一つ返事で、彼との恋愛を始めた。



付き合っていた彼は、「自分の道を行く」と考える人だった。どんなに小さなことでも、自分が決めた道は必ず歩いて行くような個性を持っていた。今まで「誰かのため」を思って行動していた私は、そんな彼が眩しく感じ、それがカッコいいと思っていた。そして、「彼のため」を思って、いつしか私も彼の言動に合わせるようになっていた。


「もう終わりにしよう。」

彼からの別れ話は、突然のことだった。

「え? なんで」

「加藤といると、合わせてもらってるって感じが凄いんだ。一緒にいて楽しくなくてさ。」

「……わ、分かった。」

私も、図星のことを言われ、彼からの言葉を受け入れるしかなかった。



彼の言葉は、意志が弱い私を変えようとしてくれた…最初は、そう思っていた。が、それと同時に、今までの生き方を全て否定されたようにも感じた。自分の身を削ってでも、誰かを思って行動してきた自分が、一気にばかばかしくなり、そして自分の生き方が分からなくなってしまった。


どんどん否定的な感情が生まれた私は、いつしか人との接触を拒むようになっていった。あまり人と関わらず、自分の殻に閉じこもる方が楽だと感じるようになり、友情も恋愛も、自分は上手くできないと考えるようになった。




大学に入った今でも、その思いは持っている。だからこそ、嬉しい言葉も受け取れずにいる。

こんな私を知れば、新城くんはどう思うのか―――何度か想像してみるが、どれも違う気がするし、自分自身を不安にさせる材料にしかならなかった。


私はモヤモヤする気持ちを抱え、スマホのメッセージアプリを出した。

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