俺 side.

第10話


かなりの月日が経ち、季節は冬になった。

俺は最初の告白から、加藤さんに対し「好き」という感情を再度表すことはできていなかった。

「新城くん。この部分の資料はどこ?」

「あぁ、それはこの資料を見た。」

「なるほど、ありがとう。」

「うん。」

最初の方の授業で告白をしてから、俺達は自然と授業の話しかしない仲になり、彼女も俺も、授業内の話は問題なくすることができていた。まるで、プライベートと仕事を分けるサラリーマンのようだ。俺達の裏にある「一件での繋がり」は、お互い地雷として、それを最大限に避けながら生活をしていた。

別に、これでいい訳ではない。むしろ、進めたいと思っている。

それでも、どこか「もう無理かもしれない。」という思いが、俺の中に存在し始めていた。諦めたい訳じゃないが、距離がここまで離れ、気持ちがすれ違っていくなら、もう無理かもしれない。

友人に「それは脈ナシだ」と言われたように、このままだと絶対に脈ナシだ。



―――そして、俺はもう一つの問題を抱えている。



「…これで11回目の授業。あと4回で終わりか。」

月曜日の一限の授業が終わった後、俺はスマホのカレンダーを見て呟いた。

俺の大学は、1つの科目につき15回の授業がある。それが終われば試験やレポートの課題提出があり、その単位が認められるシステムになっている。

ということは、この授業にもいつか終わりが来る。


加藤さんは、別の学部・学科の人だ。この授業でたまたま同じになっただけなので、必然とこの授業が終われば俺たちの関係もなくなり、また会う頻度もグッと低くなるだろう。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」

3回目の授業終わりに告白してから早8回分の授業が終わってしまったなんて、信じられない。時間が短く感じてしまう。

俺は一人自習室の机に突っ伏し、そのまま夢の中に入ろうとした。



……その時。



ピコン、という聞きなれたスマホの通知の音で、俺は目が覚めた。

なんとなくそれを手に取り画面を点けると、そこには来るはずのない彼女からのメッセージが来ていた。


『新城くん。12回目の授業終わり、時間ありますか?』


それは、彼女らしい真面目で簡潔な文章だった。

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