第11話
12回目の授業が終わった後、俺は講義室の机で作業しているふりをして、その時を待っていた。今回は授業内でのグループが違い、加藤さんは遠くの方の席に座っていた。安易に近づいて「どうしたの?」と声を掛ければ、周囲の人に不思議がられてしまうのは避けたい。俺は自分のパソコンのカーソルを、作業している風に同じサイト上でくるくると回した。
「お待たせ、新城くん。」
加藤さんが話しかけてきたのは、授業が終わり15分程経った時だった。彼女はしっかりコートを着込み、俺の方に近づいてくる。授業が終わったからか、帰り支度は済ませているようだった。
「いや、全然。」
俺はどう話せばいいか分からず、目線を彼女からずらしたまま答えた。
「ごめんね、突然。」
「い、いやいや。」
俺達は、少しの間黙り込み、静かな時間が流れた。たった10秒程だったと思うが、それがとてつもなく長く感じた。
「…告白を断った時、ちゃんとその理由を言ってなかったから。」
加藤さんは、若干口ごもりながら言った。
「理由…?」
「うん」
加藤さんは俺の表情を一瞥し、そのまま彼女の話を続けた。
―――前の恋愛のこと。
―――俺の告白から、ずっと考えていたこと。
―――キッカケがあって、そこから前向きになれたこと。
「新城くんが気持ちを伝えてくれて、私は嬉しかった。」
加藤さんは、自分の話をし終えた後、そう言った。
「ずっと恋愛はもう無理だと思ってた。恋愛は難しくて辛くて、私はできないと諦めてた。だけど、新城くんのことを思い出した時、もう一度向き合ってもいいのかなって思えたの。」
加藤さんの言葉を聞きながら、俺は自分自身の恋愛を振り返っていた。ずっと誰かを好きになれずに伏せっていた自分の、凍った心も溶かしていくみたいだ。
「加藤さん。」
「なんですか…?」
「俺も恋愛下手なんです。自分から人を好きになることがよく分からないまま日々を過ごしていて……自分から好きになった最初の人が、加藤さんなんです。」
「ほんとに?」
「うん、ほんとに。」
彼女の丸くなった目を見ながら、俺は素直に伝えた。
「だから、もう一度…友達からでも、始めませんか? 不器用でも、少しずつ歩けば、いつかお互いのことがもっと理解できるかもしれないし。」
「……はい、お願いします!」
彼女はそう言って、笑った。
その表情は、今まで見たどの表情よりも明るくて、綺麗だった。
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