第5話


俺は今まで、人を好きになったことがなかった。




初めて人に「好きだ」と言われたのは、小学校4年の夏だった。クラスの席替えで、たまたま隣の席になった女子から、放課後の帰り道で「好きです」と言われた。

「…俺のどんな所が好きになったの?」

少し興味があって聞いてみた所、その女子は満面の笑みで「顔がカッコいいし、スポーツはできるし、優しそうだから!」と答えた。

当時、俺はそれに対して何も思わなかった。多少の嬉しさはあったにしろ、それ以上の感情は沸いてこなかった。

「あぁ、そうなんだ。」

「あの…よければ私と、付き合ってください!」

俺は彼女に対し、どう言葉を掛ければいいか分からなかった。「付き合う」ことの意味が、よく分かってもいなかった。ただ、もし断れば悲しませてしまうことだけは、小学生でも理解できた。

結果、俺はその女子となんとなく付き合い、ものの3カ月でフラれた。

「好きって感情が見えないから。」その女子はそう言い、一人で帰って行った。

俺は、それに対しても何かしらの感情を覚えなかった。「勝手に近くにいた人が、いなくなった」ぐらいにしか感じなかった。


そこから俺は、小学校で4回、中学校で3回、高校で6回告白を受けた。全て、告白「された」ものだった。

種類は色々あった。クラスの真面目女子、マドンナ女子、部活のマネージャー、帰り道が同じ後輩…中には、全く繋がりがないたクラスの女子が、急に自分のクラスに来て呼び出されたこともあった。

それに対して、俺は全て首を縦に振っていた。そして、全て小学生の時と同じ理由でフラれていた。

そんな俺を、周囲の人間は「変なヤツ」だと思っていた。学校の中で特別モテたり告白されたりするのを見て羨ましいと言う人もいたし、それを通り過ぎて妬みをぶつけてくる人もいた。

もちろん、「恋愛をしたい」という思いもあった。人を好きになることは、どういうことだろうと、定期的に来る告白を受けながら、一人で考えていた。


「好きでもないのに受け入れて付き合う…ってさ、失礼だと思わないの?」

高校3年の秋―――高校生活最後の告白―――で、俺と付き合った女子は、最後そう言って泣きながら雪の道を帰って行った。

俺はそこで、初めて自分と付き合った人が泣いているのを見た。


自分の恋愛の仕方は間違っていた―――そんな後悔しても仕方がない思いが、俺の心の中で浮かび上がった。そしてそれは、べったりと心の中でくっつき、離れることはなかった。




別に、「恋愛をしていなかった」訳ではない。「全て受け身になっていた」のだ。




俺はそこで、1つの目標を立てた。


「大学に入ってからは、俺から人を好きになって、恋をする。そして、好きになった人を絶対に悲しませない。」


周りの人にそう言えば、きっと笑われてしまうだろう。それでも俺は、いたって真剣にそれを目標として掲げた。








そして、あの「加藤さん」に出会ったのだ。

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