第2話


大学に入学して約半年。

俺は、人生で2回目となる履修登録で、見事「月曜日の一限」という、大学生が一番しんどいであろう時間に授業を入れてしまった。


「新城だけ外れるのは、マジないわ~」

「別に、俺のせいじゃねぇし!」


悲しいことに、いつも一緒にいる友人は希望していた授業を見事当てていた。俺は必然的に、月曜日だけ孤独なことになったのだ。




「新城くん。この部分の資料、どれを使ったの?」


そんな「最悪な授業」で、俺は彼女に出会った。

最初に話したのは、その授業を受けて三回目の時だった。


「は…え?」

「だから、この資料…どこから引用したのかなって。」

俺のどぎまぎした表情を見ながら、彼女は冷静に言った。その顔や表情に、俺はなんとなく彼女のことを思い出す。…確か、同じ授業を取っている人だ。

いかにもガードの堅そうな真面目っ子に見える彼女は、肩上に切りそろえられた黒髪ボブをしていた。サラサラとした黒髪が講義室の明かりに照らされ、綺麗な艶が出ている………その可愛さと口調の冷徹さは、絶対合っていないように見えた。


多分、このまま黙っていたら、ヤバい。


一瞬で悟った俺は、すぐに「えっと!」と話を続ける。

「この条件で検索にかけたら、なんとなく…いや、こんな図が出て来て、使えそうだなって。」

「近くで見てもいい…?」

彼女はそう言うと、俺の反応を待たずに隣で屈んでパソコン画面をのぞき込んだ。別に意識している訳じゃないのに、女子特有の柔らかい匂いが鼻をかすめる。

「っ…」

「この図、私も使っていい? ちょうど、新城くんと同じ題材でレポート作ってて。」

「も、もちろんいいっすよ。」

俺は、彼女の顔を見ずに言った。生憎、可愛くても冷たい人間は、俺のタイプからは外れている。ただ、至近距離から女子の声がすると、若干緊張する。いや、とても緊張する。

「ありがとう。それじゃ、また次回の授業でね。」

彼女はそう言うと、さっと俺から離れた。そして、足を自分の席の方向に向ける。


そこで俺は、彼女の名前を聞いていないことに気が付いた。

「あっ、あの」

「はい?」

彼女がもう一度、俺の方を向いた。「どうしたの?」

「あ、名前聞いてもいいっすか? 多分、この授業で初めましてかなと思って。」

この言葉を言った後、俺はすぐに「いや、別に答えたくなければいいです!」と保険を掛けるつもりで続けた。

「別に、そんなのすぐに聞いてくれて構わないのに。」

彼女はそう言うと、改めて俺の方に向き直り、少し笑って言った。


「加藤です、よろしく。」

「俺は…新城です。」


これが、初めて俺が「加藤さん」という存在を認識した瞬間だった。

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