―あの日のヒーロー(3)―

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★前話までのあらすじ

宮野留雄みやのとめおは大いに悩んでいた。若返りをうたうチラシの内容を信用していいものか、胡散臭うさんくささを感じつつも、チラシ内容がどうにも彼を魅了してやまなかったからだ。そう、彼にはどうしても若返りたい動機があったのだ。


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「天誅剣奥義・プラズマ乱舞斬り!」

 世を呪う異端の生物学者ジャークド博士の研究によって、人間から不死身の亜人あじんへと改造された社会のクズ達。街で大暴れして悪行三昧を繰り返す不埒なヤツらに対抗出来るのは、警察でも自衛隊でもなく、不死身の亜人に唯一トドメを刺せる必殺の天誅剣を自在に扱うザンヴァルガーだけ。御剣護みつるぎまもるは斬ヴァルガーに変身し、今日も世の為人の為、憎き亜人達を相手に熾烈な闘いを繰り広げるのだった――。


 時は1970年代末。その頃の宮野留雄は時代のヒーローだった。村雲健三むらくもけんぞうの芸名で主に特撮俳優として活躍し、初主演を務めた『天誅烈士てんちゅうれっし・斬ヴァルガー』が当時大ヒットすると、彼は一躍ちびっ子達の憧れとなった。


 その出世作となった『天誅烈士・斬ヴァルガー』。

 人間には触れる事さえかなわない太古の神器・天誅剣てんちゅうけんを武器に、『天誅剣奥義・プラズマ乱舞斬り』を必殺技として不死身の亜人を倒す物語であり、チャンバラとカンフー映画の要素を取り入れたド派手なアクションと、殺しても死なない亜人を天誅剣で戦闘不能に陥らせた後、もう決して元の人間には戻してやれない亜人を……斬ヴァルガーがせめてどう人らしく葬ってやるのか、毎回ラストに繰り広げられる切ないやり取りが当時話題を呼び、高視聴率を叩き出して大ヒットした。

 その反響の大きさは制作側からすれば、当初は意外なものだった。そもそも斬ヴァルガーは単に子供向け特撮ヒーローものとして制作される予定だったのだが、大のカンフー映画好きで武道家としても知られる主演の村雲健三が映像的に見映えのするカンフーアクションを作品に取り入れる事を提案し、技斗担当や殺陣師の反対を押し切って試験的にそれを採用すると、放送開始直後から予想外の高評価を得た。

 さらに主人公の御剣護が斬ヴァルガーに変身した後も、健三自らがスーツアクターを務めて危険と隣り合わせの迫真のアクションを次々とこなしている事も話題となり、村雲健三による香港カンフー映画並みの加減を知らない本気のバトルアクションにお茶の間は度肝を抜かれ、視聴率は回を追う毎に右肩上がりとなって、斬ヴァルガーは特撮世界に新たな金字塔を打ち立てたのだった。


 おかげで健三の体は常に生傷が絶えなかったが、画面狭しと暴れ回るそのこだわりの本格アクションが大反響を呼び、後に村雲健三の名が特撮以外の方面にも轟くようになると、刑事モノや時代劇ドラマからもラブコールが掛かるようになっていったのだった。


 しかしその後……村雲健三が順調にスターダムへの階段を駆け上がって行ったかと言えば……残念ながらそうはならなかった。


 実は村雲健三には役者としての致命的な欠陥があり、それが露呈すると潮が引くようにサーッと彼の需要がなくなってしまったからである……。

 天は彼に二物を与えなかった。優れたアクションの才能とは裏腹に、健三には役者としての肝心な……演技力の幅が全くもって皆無だったのだ。……すなわち、彼が演じると、どんな役柄も斬ヴァルガー変身前の御剣護になってしまい、それ以外を演じ分けられなかったのである。

 無理もなかった。正義の味方オーラを全身からギンギンに放ちながら、独特の暑苦しいセリフ回しをする御剣護はまさに村雲健三そのものであり、彼自身、斬ヴァルガーの撮影時は演技をしている自覚などほぼなかったのだから……。


 よって、その凄まじい大根ぶりで早くも役者として飽きられてしまうと、その後は再び特撮世界に戻って主にバイプレーヤーとしての出演本数を重ねたものの、やはり役者一本での将来性には限界を感じ、また、その収入だけでは妻とまだ小学生だった長男を十分養って行くにはどうにも心許こころもとなく感じて、次第に健三は……新たな稼ぎ口を模索し始めるようになっていたのだった。

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