―あの日のヒーロー(2)―
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★前話までのあらすじ
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ベンチから立ち上がった留雄が軽いストレッチを行うと、体の反りやしなりに伴ってボキボキボキと節々が鳴り、いい感じに体がほぐれた。
それから誰に向けるでもない一礼を済ませた後、両足を肩幅の大きさに広げて空手の
それは留雄がかつて若き日にマスターした武術『
しかし、それを年老いた留雄が華麗に舞うものだから、初めて
演舞を終えると、最後に再び
それからまたベンチに腰掛けて、まだ少しだけ残っているコーヒーを一気に飲み干すと、以前ならこの後は空のカップを持って公園を去るのだが、ここ最近の留雄はもう少しだけ公園に長居をするようになっていた。
ジャージのポケットから四つに折り畳まれた一枚のチラシを取り出すと、別のポケットから老眼鏡を取り出して目に掛け、チラシを広げてしげしげとその文面を読み始めた。
文面の見出しには、デカデカとこう文字が
『一回50万円で一カ月間だけお好きな年齢への完全若返りを実現致します!』
じぃっとその
オレオレ詐欺にも還付金詐欺にも騙されない自信はあった。まだそこまで
しかし、しかしだった……。この……いかにもなチラシにだけは、さすがの留雄も騙されてしまいそうだった。
若返りを
チラシをゴミ箱に捨てては、(いや、待て待て……)と思い直し、また拾う行為を幾度となく繰り返しては、結局……どうにも捨てられずにこうして持ち歩くまでに至り、とことん彼を悩ませ続けていたのだった。
――そう、宮野留雄にはどうしても若返りたい理由があったのだ。
若返りの費用は50万円。今や収入は年金頼みの彼の経済力からしたら、清水の舞台から飛び降りるほどの覚悟が必要な額で、もし騙された時を考えての捨て金と割り切るにはあまりに高額だった。
それにチラシには、実際に若返りを施された人の体験談や感想もなく、会社の住所の記載すらもない。……とことん怪しかったのだ。
ただ、それでも若返り中のトラブルに対する免責の記載だけでなく、一部例外を除く補償費用への言及が大きく記載されている点だけは少し好感が持てて、留雄の心が揺らぐ最大の要因となっていた。
(補償費用が一律で3億円か……。う~む、これはやはり信用出来るかもしれん……)
いやいや……少し冷静に考えるだけで、ちっとも信憑性のないチラシだと警戒するはずなのだが……。
しかし、どうしても若返りたい動機がチラシ内容をどうにか肯定したい方向へ傾かせようとしており、信じるに足る材料を何とか探し出そうとしている……というのがチラシを見る留雄の正直な本音と言ったところだった……。
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