火傷
夕焼けが綺麗だ。うなじの筋肉をこわばらせれば、視界の上部に少し紫がかったような闇が広がる。私は自転車を押し、
「恋愛したいよ。人を愛して、愛されて。自己の存在意義になりえるかもしれないし、何よりもパートナーってとても素敵じゃないかい?」
「恋愛なんて、しようと思えばいつでもできるんじゃないかしら。別にそこまで求めるものでもないわ。」
「じゃあ君の中の恋愛は何なのさ」
「見た目とか、中身とか、そんなものに焦点を当てない。命として愛することが恋愛だわ。きっといつでもできるわよ。相手が見つかればね。だから恋愛は求めるものではなくて、待つものだと私は思うわ。」
「待つものねぇ、、」
兼川は少しの時間静かになっていた。その間私は考えていたのだ。
私は兼川が好きだ。
命として好きだ。
放したくないものだ。
兼川はどうだろうか。
私と一緒にいて楽しいのか、大事だろうか、好きであろうか。
ああ、もしそうであったならば、今ここで彼を抱きしめたい。
隠していた思いを伝えたい。形にしたい。
だが、私は火傷だ。そんな私を彼がすいているか?
答えは簡単なのであろう。
そしてそれが分かった時、これまでの時間がすべて無駄になるのだ
いやだいやだ、もう少し一緒に居たい。
ああもし神がいるのであれば、私はそいつを殴ろう。
許されない。あらゆることを。
そうわたしは
「火傷か、、」兼川がいきなり話し出す。私はその単語に驚くばかり。
「いやぁ、何、こっちの話さ。」
「少し気になるわ。火傷がどうしたのよ。」彼は少し悩んだのちに
「僕はじつは火傷なんだよ。かくしててごめんね。」驚いたとても。彼は火傷であったか。内心私はとても喜んでいた。彼も火傷で、私も火傷。大好きだ。
「安心しなさい。私もよ。かくしててごめんなさいね。」
「君もだったか!驚きだね!」
「世界は狭いってまさにこのことね。」微笑みかける。
「気づいたかい?今日で二十三年だよ。」
「もちろん知ってたわ。もう慣れてきたものよ。」
「そうか、僕はまだ抵抗があってね、こわいのさ。」
「あら、私がつけてあげましょうか?」
「ほんとうかい?助かるよ。君にやってもらえれば安心だからね。」
「いやね冗談よ。親族しかダメでしょ?」
「いや、うちの地元は親族じゃなくても大丈夫だったよ。でもさすがに常人に任せる気にはならなかったね。」
「やっぱりどこでも火傷は少ないのね。」
「そりゃそうさ、はたから見たらただの狂人だからね。」
私たちにとってその夜は、忘れられない夜であった。
情恋の話 現貴みふる @Mihuru
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