契れ雲

 僕はここが好きだ。ここにはまず人が来ることはないし、虫がいるわけでもない。狭いわけでもなければ、人の目を気にしなくて済む。だからこそ、今日も僕はくだらない授業を逃げ出し、寝転がり流れゆく雲を見ては、それに憧れを抱いた。


 コツコツコツコツ、、いつの間にか僕はまどろんでいた。まぁいつもどうりだが。

コツコツコツコツ、、それよか誰かが来ている。そこの厚い靴。誰かはわかった。

コツコツコツコツ、、トン


「なんだい?君は授業があるだろう?」


「開く側だけどね、、君は?武田先生怒ってたよ。」


「あのハゲはもういいよ。教育をわかってない。」彼女は少し笑い


「ひどい言いようね。まぁ、私もあの人苦手なんだけどね。」僕は少々彼のことを考え、不機嫌になった。


「怒鳴るのは教育じゃない。ただの体罰だ。自己のストレスを生徒にぶつけ、心を

すり減らし、僕はそんな教育者を憎む。癌だからね。社会の。」彼女は少し不安な顔をして


「え、私は?私も君の目にそう映ってるの?」恐る恐る聞いた。


「いや、少なくとも君はそんな教育者じゃないだろう。しかも、僕から見た君は癌な

どでもなく、大事な大事な許嫁さ。こんな小さな村だけど、今僕の一番大事なものはここにある。君なんだよ。いや、正確に言うと僕の次に大事だね。」


「いきなり口説き始めるのはやめて。誰かに聞かれてたら嫌だわ。」


「僕はただ事実を述べただけさ。僕が今生きてるのは、死なないためと、君を一人にしないため。あと、母のためかな。」彼女は一緒に寝転がり空を見た。


「綺麗な雲ね。一つも汚れがないわ。」比喩か。僕はこういうのが好きだ。


「その雲は流れて行ってしまうだろう?」僕は傍にいるよ


「流れて行ってもいいのよ。私を待つ必要もない。捨ててもらってもいい。ただひと時、一緒にいてくれるだけでいいのよ。」


「僕の見てる雲は、だいぶゆっくり流れてるね。いや、止まってくれてるのかな。」


「いや、その雲途中で消えちゃうわ。パって。気づいたら消えてるわよ。」


「いや、僕が見てるうちはその雲は消えないさ。消させない。」


彼女は満足したように腰を上げた。僕は彼女の黒く、長い髪が好きだった。


「そこそこにしておきなさい。君は一応学生なんだから。」


「君も教師なんだから、生徒達の下へ行きな。今頃武田先生が君のことも探してるだろう。」


彼女は微笑を含み、去っていった。僕は引き続き雲を眺めていた。

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