第4話 七咲先輩と冬休み初日

どうやらもう朝になっていたらしい。時計を見ると八時だった。どうやら寝過ごしたらしい。

(昨日は色々とあったからな……………。幸いにも冬休みだし別にいいか。先輩は…………アレ?もうおき………はぁ?!)

七咲先輩はベッドにはいなかった。もう起きたのかと思って起きようとした時手を握られていることに気付いた。そう。七咲先輩は俺の隣で寝ていたのである。

「な、なんで先輩が俺の隣で…………。とりあえず起きるか」

俺は七咲先輩を起こさないように布団から抜け出して一階に降りた。一階に降下りたあと俺は二人分の朝食を作り出した。今日は七咲先輩もいる訳なので割とまともな料理を作る。

「何がいいんだろうか…………。適当に味噌汁とご飯とサラダでいいか」

俺は普段以上に丁寧に朝食を作り七咲先輩を起こしに行く。二階に上がる。

「ねえさっ…………。七咲先輩。もう朝ですよ!起きてくださ!」

「んんっ……。あれ?たち、ばな……くん?」

「はい。橘さんですよ」

「へっ……………………。あれ?!わっわわわわ!」

なんかものすごくテンパっている七咲先輩。もしかしたら俺が寝ていた布団で寝ている事に驚いているのだろうか?気のせいだろうか顔も赤くなっている。とりあえず七咲先輩に朝食ができた事を伝える。

「へ、たっ橘くんがつくったの?」

「はい。かなり前から一人暮らししてるので」

「そんなに前から?!」

「はい。かれこれ八年………ですかね。とりあえず起きてください先輩。着替えはそこにあるので着替えたら下りてきてください」

「う、うん。分かった………」

俺は七咲先輩に着替えを渡して一階に下りる。それから盛り付けをしてテーブルに置いてから箸を用意しておいた。七咲先輩はすぐに下りてきて俺が作った料理を見て歓声を上げた。

「わ〜!すごい!コレ橘くんが作ったの?!」

「そうですよ。さ、食べてください」

「い、いただきます」

「召し上がれ。いただきます」

俺と七咲先輩は朝食を食べ始めた。七咲先輩は終始美味しいと言った表情で俺が作った料理を食べていた。この世の幸せと言う程に。俺はその表情が姉さんと被って見えた。俺が作った料理を美味しいと泣きながら食べていた。とても嬉しそうに幸せそうに食べる七咲先輩のその表情が姉さんに見えてしまった。さっきもそうだが七咲先輩と姉さんでは全く容姿が違うのになぜか俺は七咲先輩に姉さんの姿を重ねていた。

(なんで姉さんに被せちまうんだ………。先輩は姉さんじゃないし俺の居場所でもないのに………)

「橘くん、どうかしたの?」

「あ、いえ。何も」

「そう?ずっと私の方を見ていたけど」

「気にしないでもください。何もありませんから」

「そう?ならいいんだけれど」

「はい」

朝食を食べ終えた後俺はキッチンで使った食器を洗う。それを見て七咲先輩は手伝うと言ってくれたが少なかったし大丈夫だと断った。七咲先輩はソファーに座りテレビを見ていた。この時間帯だとニュースくらいしか無いはずだからニュースなのだろう。俺は食器を洗い終わると七咲先輩の元に向かう。

七咲先輩はやはりニュースを見ていた。〇〇県で殺人事件、〇〇市で放火、〇〇では銃の乱射、〇〇では感染症の感染域拡大、等々物騒な話が立て続けに報道されていた。

「世の中……………………物騒だね」

「そうですね」

俺は七咲先輩に同意した。確かに物騒だったが俺には関係の無い所で起きていることなのであまり関心はなかった。

(姉さんも同じ事を言うんだろうな。きっと……………………)

俺は七咲先輩を姉さんと重ねることを辞められなかった。なぜなのだろうか。七咲先輩は姉さんではない。でも、でも

どこか姉さんと似た雰囲気………とでも言うのだろうか。その雰囲気が俺には心地よくて気持ちいい。とても居心地のいい空間にいるような感覚になる。それだから姉さんと勘違いしてしまうのだろうか。分からない。分かりたくない。でも少なからず七咲先輩といたいと思っている自分がいるのは確かだった。

「先輩はいつ帰りますか?」

「わ、私は……………………」

「はい」

「私は………。帰りたくないんだよね………………」

「どうしてですか?」

「昨日も言ったよね。私には良くも悪くも居場所が用意されてたって………」

「言ってましたね」

「家に帰ると縛られる生活が変わらなく続いていくの。何をするにもお父様に話さなければならない。どこへ行くにもお付きの者がくる。一人で要られた所なんてどこにもなかった。落ち着ける場所なんてなかった。居場所はあっても落ち着ける場所はなかったの……………………。だからいろんな人と関わってもっと色々なことを知りたいと思ったの」

「そうなんですね」

「私はIQ200とかって言われているけどそれでいなくちゃ居場所が失くなる。私は天才でいなくちゃいけなかった。だから周りからは不快に思われ嫌われて、虐められて何もできなくて、話とくれる人も直ぐにいなくなっていった。何もかも私は奪われてしまった。たかが『天才』と言う事だけで何もかもを。その上居場所を失くしてしまったらもう私には何もできなくなる………………」

「そうだったんですね。先輩もですか」

「へ?」

「何も感じない?確かに俺にはもうなにも残っていませんありません。感情だって俺には無い。居場所を求めていた時期もありました。ですが居場所になってくれそうな人は皆俺から離れて行った。そして一番の居場所だった人も自殺してしまった。だから約束だとか絶対だとか一緒にだとかがある訳がないと、信じるだけ無駄だと分かった。だからこそ俺は人と関わることを拒絶して生きてきた。それでも先輩は違います。俺とは違うんです。だから無理しなくていいんです。お父さんは家に居るんですか?」

「う、うん……………………」

「俺が話をつけます。俺は関わってしまったのなら最後まで関わりたいと思っているだけなので。天才は先輩だけじゃありません。話を付けてみます」

「ありがとう……………………たちばなく、ん」

「あと、俺は居場所が欲しいと思ってないのは変わりません。先輩に居場所になって欲しいとも思っていません。ただ、先輩の話し相手くらいにはなります」

「ありっがと、う……………………」

俺は居場所を求めていない。必要ないと思っていることに変わりはない。だが七咲先輩が前に進む為に俺と関わりたいと言うのなら俺はその手助けがしたい。七咲先輩が俺から離れるならそれでいい。俺が居場所を求めてしまうようになってしまうかもしれない。だがそれでも俺は七咲先輩の力になりたかった。姉さんに似ている七咲先輩の側に少しだけいたくなった。

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