Chapter2 ~ To The Royal Capital ~

第18話 王との謁見

 王城に入るなり、ソフィア達とは離れ離れになった。ソフィアは侍女達がわらわらと現われて連れていかれ、フレディとグレースは近衛騎士団の詰所に報告に行くようだ。

 基一は一人、小さな個室に入れられて待たされることになった。

 二時間ほどしたら一人の執事風の男がやってきて一緒に部屋を出た。

「どちらに向かっているのですか?」

「謁見の間になります。そこで王と王太子がお待ちです」

(王様か、そうだな、王女と行動を共にしていたんだ。どんな奴か直接見たくもなるか)

 基一は気を引き締めた。

 謁見の間についた。男が扉を開いて促す。

「ここからはあなただけでお進みください」

 待合室で事前に聞いていた作法で入室する。中はかなり広い場所だった。赤い絨毯が敷いてあってその上を歩き、王の玉座まで進む。そこで片膝をつく、顔はずっと下を向いたままだ。

「表を上げよ」

 ゆっくりと顔を上げる。


 目の前にいるのが王様だろう。ソフィアと同じ金色の髪で口髭も金色だ。意外と華奢だ。その隣には若い男が立っていた。やはり同じく金髪で細身な体つきだ。

 武術とかはやってなさそうだ。王太子か? ソフィアの兄君だな。ソフィアはいない。少し離れた横に何人かの人が立っていた。側近の貴族達だろう。


 王様が訪ねる。

「そなたの名は?」

「サイトウキイチと申します。サイトウは家名でキイチが名となります」

「ほう、珍しい名だな。どこから来た?」

「ソフィア殿下がおっしゃるには異世界からと言うことです。私は殿下の召喚魔法でこの世界に呼ばれました」

 正直に話す。ソフィアとは特に打ち合わせていない。基一は嘘がつけないからどうせ打合せも意味はないだろうが。ソフィアもそれがわかっている。

「なに? 召喚魔法だと? あいつめ。わしに一言も相談なく使いおって」

 あっやば。言わない方がよかったか? 秘密ですとか言っても俺が怒られるだろうしな。

「しかしながら私はそれにより救われました。時同じく、私は異世界で戦闘中だったのです。敵に囲まれて瀕死のところをソフィア殿下の魔法が助けてくださいました。その後は殿下にお供させていただき、護衛を勤めさせていただいておりました」

「そうか。お前にはいろいろと聞きたいことがある。ソフィアから話を聞く前にと思ってな。しかし異世界とは……、いったいお前のいた世界とはどんなところなのだ?」

「私のいた世界では魔法はありません。魔獣もいません。ですが魔族らしきものであれば過去にいたと文献に残っております。しかし私がいた時代にはほぼ聞かなくなりましたのでおそらく絶滅したかと考えられます。それ以外はあまり変わりません」

「魔法が使えないだと? それでは普段の生活はどうしているのだ?」

 普段の生活?

「火や水のことでしょうか? 火は普通に火打ち石などで起こします。水は井戸や川から運びます。本来の生活のとおりですね。いや、ここでは違うのでしょうか」

「そうか。中々に不便な世界だな。だが、魔族や魔獣がいないのはいい」

「はい。この世界に来て一番に驚いたのは魔獣や魔族です。あんなものが町の外にうろついてるなんて。あれでは気安く町を出ることもできないし、旅もできない」

「そうか。異世界では気軽に外に出ることができるのだな。いい世界のようだ」

「はい。ですが人同士の戦争は起こります。内戦や国同士でも。私のいた世界の歴史は戦争の歴史とも言えます」

「それはどこにいても同じなのだな」

 王は諦めたような表情をした。

 ここでもそうなんだな。

「人は弱い。なので身を守るために敵を作り攻撃する。よく考えればそんなもの必要ないとわかるのですが、多くの人は本来の尊い命の使い方を間違えてしまいます」

「ほう、そなたはよく考えておるな。仕事は何をしていた?」

「領の剣術指南役を預かっておりました。私は若い騎士たちに基礎剣術を教えていました」

「剣の先生か。そなた自身も強いのだな」

「正道一刀流という剣術の師範です」

「なるほど、それでソフィアの護衛か」

「はい。剣で魔族を倒していました」

「なに! 魔族だと! 魔族とも遭遇したのか?」

 あっまたいらんこと言ったか。

「そのあたりはソフィア殿下からお聞きになられたほうがよろしいかと。なぜ殿下が旅をしていたのかも」

「そうだな。おい、ソフィアをここへ」


 五分ほどしてソフィアが入室してきた。

「お待たせしました。国王陛下」

「ソフィア、お前は魔法学園で魔法の勉強をしていたのではないのか? この者からレクサムまで行っていたと聞いたが本当なのか?」

 ソフィアは基一をジロリと見てはぁと小さく溜息をつき話す。

「はい。魔法学園のほうは少し余裕ができましたので国の現状を見たいと思い旅をしておりました。事前の報告をせず申し訳ありません」

「なぜそのような危険なことをしたのだ」

「国の現状を見るため、と申し上げました。陛下は今国民がどのような状況にあるかご存じでしょうか? 私は知らなかったので自分の目で見たいと思い、近衛二人を連れて冒険者として旅に出ました。 

 結果、この国の民が私の想像よりもはるかに厳しい状況であることを学びました」

「どういうことだ?」

「私はレスターまで旅をしました」

 ざわざわと周りが驚いている。

 よっぽど危険な地域なのか?

「その間に一つの村がすでに魔族に襲われて廃村となっておりました。レクサムやレスターの町は外壁で守られていますが村や小さい町では守る術がありません。それほど魔族に遭遇する機会もないと思っていましたが、私達はこの数か月ですでに二百体ほどは魔族を討伐してきたと思います」

「なんだと? それはまことか?」

「はい。といっても多くはゴブリンですが。おもに討伐していたのは中央のレクサムの近隣の森です。そこではゴブリンとオークがいました。北部のレスターでは怖くて森には入れませんでした。おそらくトロールやオーガがいることでしょう。冒険者ギルドで三パーティがオーガ討伐任務で全滅したと聞きました。北部はすでに強力な上位の魔族が現われ始めています。

 陛下、どうか騎士団の増援を。ブルーベルだけではもはや対応できないかもしれません」

「なんと。すでに国内にオーガまでいるとは。わかった。すぐに増援の検討をしよう。ソフィア、勝手な行動については後で言い分を聞かせてもらおう。しかし魔族対策のほうが先だ。おい! すぐに軍務大臣を呼べ。緊急会議だ!」

 ざわざわと部屋にいた貴族達が動き出す。


「ソフィア、そしてサイトウキイチよ。ご苦労だった。下がってよい」

「お待ちください陛下。私からお願いがあるのです。」

 ソフィアが食い下がる。こんなことができるのは王族だけだろう。

「なんだ?」

「このサイトウキイチを私の近衛に任命してください。キイチは私が召喚魔法で呼び出しました。ですのでこの者を私の護衛としたいのです」

「だが、このものは貴族ではない。異世界から来たといったがここでは平民となる。平民が王族の近衛になるなど許されるものではないのだ」

「いえ、彼は平民ではありません。召喚獣です。人の姿をしておりますが私が召喚魔法で呼び出したのですからいかようにも理由はつけられるかと。

 逆に平民とするなら彼には何をさせるのですか? 私は近衛騎士団とともに国内を回り、魔族の討伐に当たりたいと思います。そのためにはキイチが必要なのです。どうかご検討を。陛下」

「なに? お前が魔族討伐だと。それはならん。お前は王女なのだ。王女自ら魔族討伐の前線に立つなど聞いたことがない」

「ですが私には力があります。王女といっても私に何か王宮で役目があるとは思えません」

「お前には立派な縁談を用意しよう。有力な貴族か、隣国の王族との関係構築も必要なのだ。それはわかるだろう?」

「わかります。ですがそれは国が平穏になってからでも遅くはありません。今は魔族を国内から駆逐することが最優先です。そのために私の力は大いに役立てると思います。魔法で傷ついた兵を癒せますし、魔族を倒すこともできます。それに私の身はキイチが守ってくれます。確かに一国の王女が戦争に出るなど聞いたことはありませんが、それは過去のことでしかありません。今この国に必要なのは力のあるものが魔族を打ち倒し、平和な人族の世を作ることです。陛下、どうかお許しを」


 王は黙考する。

「サイトウキイチよ。お前はどれほどの技量があるのだ。魔族との戦いでソフィアを守りきるほどの力があるのか?」

「国王陛下、いかなる戦いでも何が起こるかはわかりません。絶対に守るということは言えません。ですが、自分の命を賭してでもソフィア殿下をお守りすることはお約束いたします。自分にどれだけの技量があるかは測っていただかないとなんとも。

 それと、姫様と私を入れた四人の冒険者パーティだけで二百体近くの魔族を討伐したことも確かです。戦略を練って確実に勝てる戦い方はできるかと。それだけでも多くの国民の命を救うことができます。自分は姫様が王女として何をしたいのかを知りました。姫様はアルビオンの国民が幸せに暮らせる世の中を作りたいと話してくださいました。自分はその志に感銘を受けました。この方になら仕えてもいいと思えるぐらいに。

 私のいた国でも今まで姫君が戦に出たことなど聞いたことがありません。

 ですがソフィア殿下はすでに行動されています。多くの魔族を討伐し、すでに多くの人々を救っているのです。この半年間で何度も何度も恐ろしい目に合っているにもかかわらず、殿下はまだ戦うと言っているのです。

 それに……不敬にあたるかとは思いますが、ソフィア姫様は誰かの嫁になるのはちょっと無理かなと」

「ちょっとキイチ! それどういう意味よ!」

 ソフィアが吠えた。

「……このように姫様は結構男前なところがありまして。よっぽど器が海のごとく広い殿方でないと旦那には向いてないと思われます。姫様が嫁ぐには平和な世の中になって姫様が花嫁修業をしてこの性格を隠せるようになってからがよいのではと具申いたします。

 まあ、その時にはだいぶ年齢もいってるとは思いますが、このとおり姫様は絶世の美少女です。年齢など関係なく引く手あまたかと。性格を隠せばですが」


「ぐぬぬっ」

 ソフィアはうれしいやら腹立たしいやらで複雑な顔になっていた。


「ぶっ、うわはははは!」

 王様が声をあげて笑った。周りはぎょっとしている。

「なかなか言うではないか。このような場でそこまで本心を言う者など見たことがないわ。

 よし。いいだろう。サイトウキイチ、お前の強さがどれくらいか測らせてもらう。ソフィアを守るに値する力があればソフィアの近衛を魔族討伐に充てることを考えてみよう」

「おとうさ、陛下! ありがとうございます!」

「ソフィアよ。全くお前の勝手な行動にはあきれてものも言えんよ。もうわかった。お前に王女としての今後は考えないようにする。お前のやりたいようにやってみろ」

「はい! ありがとうございます。陛下!」

 ソフィアは深々と礼をとる。キイチもそれに合わせて跪いて礼をする。


「すべての騎士団の中で一番強いものを連れてまいれ。模擬戦をして勝てばキイチをソフィアの近衛とする」

「へ、陛下、平民を騎士にするなど、それでは今まで守ってきた騎士の秩序が乱れてしまいます」

「よい。それにキイチは平民ではない。元の国でも騎士をしていたと言っていたであろう。ならば平民ではない。特別な対応として騎士爵を作ればよい。異世界から召喚したと公にしてもかまわん。それに騎士団で一番強いものに勝てばの話だ。だがもし勝てたなら騎士にしなければ騎士団の名が落ちるのではないか? 冒険者に負けたと知れば騎士団の信頼が落ちるだろう。勝負より遡って近衛騎士に任命していたことにすればよい」

「は、はは。では直ちに準備を」


 そして基一の進退を左右する模擬戦が行われることとなった。

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