第12話 王女の告白

 アルビオン中央に位置するレクサムを拠点にして、森に潜む魔族を討伐して三か月が過ぎた。

 サジタリウスは対魔族討伐に無敗を誇り、冒険者ギルドでは一目置かれる存在となった。

「皆様お疲れ様でした! 今日の討伐でパーティランクはBに昇格となりました! おめでとうございます!」

 討伐報告にギルドに行くと受付嬢のセルカからランクアップしたと言われた。

「おお! これでAランクの依頼まで対応できる」

 討伐依頼は自身のランクの一つ上まで受けることができる。

「Aランクというのは今までと何か違うのか?」

 基一がフレディに尋ねる。

「より強い魔獣の討伐依頼に対応できるようになる。魔獣ならアースドラゴンとかだな。魔族ならトロールがAランクになるな」

「トロール? どんなヤツだ?」

「トロールは一つ目一本角の魔族でとにかくでかい。十フィート(三メートル)以上もある巨人だ。動きは遅いが怪力で一発食らうとまずつぶされて死ぬな。群れではなく一体でいることが多い。頭が良くないから連携とかしないんだろう。いくつかのパーティで一緒に倒すのが理想だな。だからトロールの依頼は複数パーティが同時に受けられるようになってる」

「そりゃでかいな。首まで刃が届きそうにないな。足を切って倒すとかだな」

 早速基一は対トロール戦を想像した。

「でも、そんなでかいなら目立つだろ? いままで見たことないけどどこにいるんだ?」

「トロールはもっと北のレスターの町まで行かないといないと思う」

 レクサムまではゴブリンとオークまでしか南下してきていない。トロールや、Sランクのオーガなどはまだレスター以北までしか来ていないのだ。

「そうね。あらかたこのあたりの魔族も減ったと思うからそろそろレスターでリベンジしてもいいかもね」

 ソフィアは意気込む。

「行ったことがあるんだな」

「行ったことはあるけど、怖くて森には入らなかったの。まだゴブリンやオークも実際に見る前だったから。それにちょうど他のパーティが合同でSランクのオーガ討伐の依頼を受けてたんだけど全滅したのを聞いてあそこではとても無理だと思ったわ」

「オーガってのはそんなに強いのか?」

「ええ、魔族で一番強いとされる種族がオーガよ。それに知能も高くて中には人族の言葉を話すものもいるらしいわ。単体でもいるけど他の魔族を従えて人族の村や町を襲ったりもするの。北部はブルーベル騎士団が見回ってるんだけどうまくかいくぐられてて完全な防衛は無理みたいね」

「そうか。ならレスターに行こう。俺たちの連携もうまくいってるし、そっちの方が役に立てるんじゃないか?」

「そうなんだけど、その前に一度王都に戻りたいと思うの」

「王都?」

「ええ。王都ベルファストはここから南に行ったところにあるわ。そこでキイチにも頼みたいことがあって」

「どんなこと?」

 基一の問いに、ソフィアはフレディを見た。フレディは頷いた。ソフィアの口調が変わる。

「そうですね。そろそろキイチにも話す時かと思います」


 四人はギルドを出て宿屋の部屋に集まった。

「キイチ。今まで黙っていて申し訳ありません。実は、私はこの国の王女なのです」

「えっうそ」

 基一は驚愕した。今まで心の中でさんざん残念に思っていた娘が王女とか言い出したからだ。

「本当なのです。私はソフィア・オブ・アルビオン。アルビオン王国の国王フレデリックの娘、第一王女です。

 どうですか? 今までさんざん軽くあしらってきた娘が王女でしたよ。しかも美少女の。後悔してますか?」

 ソフィアがここぞとばかりにドヤ顔で基一を見てくる。

 真実を聞いてもなんか軽い気持ちになるのはなんでだ?

「そうですね。驚きました。まさか王女がこんなわがまま娘だったなんて。いったいどんな教育してきたんだ? アルビオン……」

「ちょっと! なによそれ! まるで私がわがまま言ってるみたいじゃないのよ!」

「いや、そう言ってるんだが。いえ、大変失礼しました」


 基一は椅子から床に降りて両ひざと両手を床につけて武士の礼をとった。

「ソフィア姫、今までのご無礼をお許しください。いえ、どのような罰でも最大の反省をもって受ける所存です。死ねといわれれば腹を切りましょう。何なりと申しつけてください」

 基一は土下座して謝罪した。

「な、なによ急に、別に罰なんか与えないわよ。それに今まで普通に接してくれてうれしかったわ。だからそんなにかしこまらないで」

「いえ、今後は丁重に対応することを誓います」

 基一が土下座を解かない。

「だめです。あなたには話しましたが他の人たちに悟られてはなりません。だから今まで通りの対応でお願いします。……わかった? キイチ」

 最後は普段の口調で尋ねた。

「……わかったよ。じゃあ王都に着くまでは今まで通りで対応させてもらうよ。これでいい? ソフィア」

「う、うん! それでいいわ」

 なぜかご機嫌になるソフィアであった。

「あの、もう一つお願いがあるのだけれど」

「なに?」

「ブシドーについて教えてほしいの。この国には騎士がいるわ。フレディもグレースも私の近衛騎士なの。二人は私に良くしてくれてるわ。だけど、他の騎士みんながそうじゃない。それに国を守るためにあるはずの貴族なんてひどいもんだわ。私はこの国を変えたいの。そのためには他の国のことも知るべきだと思うの。特にキイチのいた国には興味があるわ。全部ではないかもしれないけど、少しでもいいところを見習いたいと思うの。だめかな?」

「わかりました。いや、わかった。じゃあ今後は時間があるときにでも俺が学んだことなんかを伝えるようにするよ。教本も何もないから俺の頭の中の偏見になるかもしれないけど」

「それでいいわ。いえ、キイチの考えが知りたいの」

「それでよければいいよ。わかった」

「ありがとう! じゃあこれからは先生ね。よろしくお願いしますわ。『私の』先生」

 ソフィアはグレースにこれ見よがしに強調して言った。


(ふん、地味子のグレースなんかに負けてられないわ。なにが勝ち負けかはわからないけどなんとなくそう思うんだから仕方ないわ)

 まだまだ自分の気持ちがわかっていないソフィアだった。一方のグレースは、


(はぁ、姫様、キイチさんのことが好きなんだ。どうしよう。性格は悪いし胸もないけど顔だけはきれいだからなぁ。キイチさんが面食いじゃなきゃいいけど)

 どちらもたいがいな性格である。


そして四人は王都へ帰還するため、レクサムを出ることを決めた。

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