第11話 レクサムでのちょっとした出来事
今日も討伐から町へ戻った一行は冒険者ギルドに討伐報告と素材の換金に向かっていた。時刻は夕方から夜になろうとしていた。
ギルド近くまで来たところで騒がしい声に気付いた。
「なあなあ。ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいだろ? 金は俺が払うからよ。一緒に飲もうぜ」
「や、やめてください。わたし家に帰らないと」
「そんなつれないこと言うなよ。ちょっとだけだからさ。な?」
「い、いやです。離して!」
若いチンピラのような冒険者が町娘の腕をつかんで酒場に連れて行こうとしていた。
はあ、と息を吐いて基一は近づいていく。
「おい、やめろ。嫌がっているだろう」
「あん? なんだてめえ、関係ねえだろうが」
「関係ないとかあるとかの問題じゃない。嫌がる女子をほっとけるか。さあ、離せ」
「はん。いやよいやよもスキのうちなんだよ。こう見えて誘ってほしいんだよ。この嬢ちゃんはよ」
「そんなことありません。いやです!」
「いやって言ってるだろう。いいから離せ」
基一はパンッと男の腕をはじいて手を離させた。
「てめえ、なにしやがる!」
「だいたい気安く女子に触れるんじゃない。触れていいのは家族と夫となるものだけだ。そんなことも知らんのか。ボケが」
「クソガキの分際でふざけるな!」
「クソガキだと? 俺はお前よりも年上だぞ。」
「嘘つけ! どう見ても童貞のクソガキだろうがよ」
「ぐっ、クソガキではない。俺は三十五だ!」
「嘘つけや!」
「本当だ、俺は三十五の男前のおじ様なんだよ」
「ほう、で? 三十五のおじ様だけど、童貞は否定しねえのか?」
「ぐっ、どどど童貞は関係ないだろう?」
基一は嘘がつけない。武士の誓いなのだ。
「ぶふっ、てめえ本当に童貞かよ? 三十五にもなって? ぶはははは! じゃあクソガキも同然じゃねえか? ぎゃはははは!」
「キサマ! 武士を愚弄するか!?」
ちきっ と基一は刀の鯉口を切る。それを見たフレディが止めに入る。
「キイチ、やめとけ。たかがナンパだ。もうあの子も逃げて行ったからそのへんでいいだろう?」
「ちっ、余計なことを。おいお前、命拾いしたな。これに懲りたら気安く女子に触るんじゃないぞ」
基一に仲間がいたことで分が悪くなった男はその場から離れていく。捨て台詞を残して。
「はいはい。わかったよおじ様。童貞に女の扱いを教えてもらえるとはありがたいことだぜ。はっはっは」
ぐぬぬぬぬっ
基一は手から刀の柄を離せず、逃がすかどうかまだ葛藤していたが歯を食いしばり耐えた。
それを見ていた一行はほっと一安心した。
ソフィア
(キイチは童貞なのね。見た目どおりでかわいいわ。もしかしてあそこもまだまだかわいいのかしら。うへへ)
グレース
(キイチさん童貞なんだ。良かった。でも恋人とかいなかったのかな)
フレディ
(今度娼館にでも連れてってやるか。こういうところは遅れてるんだな)
三十路で童貞ということが露見した基一は当分の間は恥ずかしさで落ち着きがなかった。
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