chapter4

 コーヒーの匂いで包まれた空間。その中で、

「救えない人生を、どうにか一発逆転で成功させられないか。そう考える連中はどこにでもいるだろ?」

 ドクターカナモリは達観した調子でそう口にする。

 彼の前にいるのは、黒尽くめの服装の男。

「…………しかし、結局のところ人生とは、……地道にやっていくのが、近道、では……」男は考えながらゆっくり喋る。

 カナモリ院長は男の言葉に頷く。

「そうそう。君は賢いからそれが分かる。でも分かんない子もいるのよ。『忘却されし疑団』もそう。宇宙のどこかに自分たちを助けてくれる存在が居るはずだってぼんやり考えている。そんなのいないって前提で生活したほうがいいのにね。残酷だけど気楽でさ。

 でも人間は夢を見てしまう生き物だからね〜。仕方ないっちゃ仕方ない」

 ここでカナモリ院長はコーヒーをズズッと飲む。

「アチチ」

 熱かったようだ。

「それで……これから、どうする?」

 薄暗い声で、男は尋ねる。

「まあ、彼はめちゃくちゃラッキーボーイだからね。追手のことは心配しなくていいよ」

「ああ……確か、『宝くじ以外は当たる男』、だったか」

「ふふ、そうそう。問題は彼女のほうだね。色々安心はできない。記憶が蘇るかもだし、或いは捕まっちゃうかもだし」

「なるほど」


 男は密偵である。

 名前は今の所明かされはしない。(嘘。実はまだ考えてない)

 傷付き倒れたところを救われて以来、カナモリ院長の懐刀になっている。大抵はカイバの動向(活躍ともいう)を見張る役目を負っている。

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