第20話 三章⑤『討伐』
「貴様は―――――」
大和が見上げる視線の先には大槌を構えた洸太郎が立っていた。
「悪い、遅れた」
洸太郎は短く言うと視線を吹き飛んだ禍神へと向ける。
大したダメージを受けていないのか、禍神はその巨体を起こすと二人を睨み付ける仕草をした。
グッオ、ア、アアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!
「うるせぇヤツだな。ってな訳で助けに来たんだが…………まだやれるか?」
「さぁな。身体は正直ボロボロだが―――――そうも言ってられんだろう」
二人は不敵に笑うとそれぞれ構える。
「俺は百鬼洸太郎。アンタは?」
「不動大和だ―――――で? 格好良く来たはいいが無論完璧な計画はあるんだろうな?」
そんな大和の問いに洸太郎は不敵に笑う。
「まぁな………………でもほとんど不動が頼りだし、穴空きすぎて本当にこれでいいか迷いまくってるけど―――――」
洸太郎が簡単に説明していく。
それを聞いた大和の反応は、
「正気か?」
だった。
予想しいていた反応だったが口に出されるとやはりショックが大きい。
「ま、まぁそんな事だから頼むぞ!」
そう言うと洸太郎は思い切り踏み込み岩色の禍神へと突進していく。
もちろん正面から向かってくる敵を禍神も迎え撃とうと再び巨腕を振りかぶる。
そしてその巨腕が放たれた時、目に見えない衝撃波が二人を襲う―――――ハズだった。
「不動ォォォォォォォォォッッッッッ!!」
洸太郎は叫んだ。
禍神は気付いていない。
向かってくる洸太郎が死角になっていたせいで大和が何をしようとしているのかを―――――。
「無茶をするッ!!」
大和は『明王』の
「(
不動大和の扱う籠手型の
石の礫は頑丈な矢に、コンクリートは倒壊する建物を支える石柱に〝変換〟する。
ならば――――――――――。
例えば、禍神が立っている地面を砂漠に変えることも可能なのだ。
「出来たッッ! 絡まれ―――――
大和が地面に術式を撃ち込むと禍神の足元が砂に変わりその砂が無数の蛇のように絡まっていく。
そして、その隙を今度は洸太郎が見逃さない。
「だ、らァァァァァァァァァッッッッッ!!」
彼が手にしているのは槍のデヴァイス。
それを
ガギィィッ! と鈍い音がするも禍核には傷一つ付いていない。
それもそのはず、災禍狩具は対禍神用の武器だがそれだけでは効果がない。
災禍狩具に術式を展開させて初めて禍神に対抗できるのだ。
他人の災禍狩具を使っている洸太郎には術式の起動すら出来ない。
禍神は嗤う。
やはりこの男は取るに足らない存在だと。
自分の障害はもう一人の男だと、そう思った。
そう、この禍神は油断をしてしまった。
だから気付かない。
大和の繰り出した砂縛柩は徐々に自身の身体を締め付けていくのを―――――――――。
バキンッ! と渇いた音が響く。
締め付ける砂の蛇は知らぬ内に禍神の禍核にヒビを入れている。
グギッ――オァ――――ッ――――!!?
「(やはり――――かなりキツイが、全く意味が無いわけでもないな)」
慣れない遠隔操作に加え物質創造を二つ同時に展開するとなるとやはり精神的にも肉体的にも負担が大きかった。
だが、
「確かに、地震は起こせんようだな」
洸太郎の読みが当たっている事に大和が感心していた。
「地震、だと?」
大和は洸太郎の答えに何故か簡単に納得が出来た。
「なるほどな。確かにあの衝撃は地震によるものと言われれば説明が付く。だが水平に―――――と言うよりも空間に地震を起こすなどやはり規格外なものだな」
災い―禍―を招く神、その名はやはり伊達ではなかった。
「あと一つ分かったことはあの
岩色の禍神の宙に浮いている一対の巨腕―――――そこにエネルギーを溜めて放つというのが特徴なのだろう。
実際には直接戦った洸太郎や大和の二人がそれを分かっている。
「つまり
「考えられるのはあくまでもメインはあのデッケェ腕で他は予備か、もしくは禍核を守る為だけの可能性があるな…………どっちにしろここまで来れば行くしかねぇだろ」
そう言って洸太郎は手にしていた災禍狩具を握り締めた。
奇しくも洸太郎の読みは当たった。
念には念を入れ禍核を守るように配置されていた十本の腕も動けないように縛ってはいるがそれでも長くは持たない。
「行け―――――百鬼」
大和の静かな声は確かに洸太郎の耳に届いた。
洸太郎の手にしているのは先ほどと同じく槍型の災禍狩具だ。
もちろんこの槍では禍核には傷は一つも付けることは叶わない。
それは既に証明済みだった。
だからこの岩色の禍神は洸太郎の攻撃を無視していた。
当たり前だ。
これ以上無意味なモノに構っている暇はない。
さっさと目の前のゴミを排除して虐殺の限りをし尽くす。
そう思っていた。
しかし、
この禍神は知らない―――――知る由もない。
結果は壊しきれていなかったが実際破壊には成功している。
今は禍核にひび割れ程度しか入っていないが洸太郎には今はそれで十分だった。
槍を突き刺し力の限りを振り絞る。
ミシミシミシッッッ―――――軋む音が響く。
バギンッ、と鈍い音がした。
それは洸太郎が手にしていた槍が壊れた音だった。
禍神は勝利を確信する。
多少ではあるが禍核の裂け目が拡がったがそれは対した問題ではない。
絶望に顔を歪める少年を見るのが愉しい、そう思い何処にあるか分からない禍神の視線が洸太郎を捉え、
「やっと―――――油断したな」
洸太郎の片手には剣の災禍狩具ともう片方には大槌の災禍狩具―――――――剣を禍核の裂け目に突き刺し大槌を振りかぶる。
洸太郎は狙っていた。
大和のように術式を展開する事が出来ない。
神代のように凄まじい力を発揮できない。
だが、
百鬼洸太郎の戦い方は今も昔も変わらない。
心は熱く、そして頭は冷静に、心頭滅却を以て。
「ぶち抜け―――――」
不備な体勢で力強く大槌を撃ち込む事は出来ない。
ならば全身のバネを使って威力を高め撃ち込む。
腕だけではなく腰、肩、連動して捻りを加え正確に一点だけを狙い撃つ。
「
捻りを加えられた大槌は剣の柄に吸い込まれる様に撃ち貫く。
バギャッッッッッ!!
剣は禍核を貫通し地面に突き刺さる。
洸太郎はそのまま地面に倒れ込み大和も力が尽きたのか術式が解け砂の蛇は只の粒子へと戻っていく。
静寂が辺り一帯を支配する。
この場にいる誰も動かない。
先に動きを見せたのは―――――禍神だった。
宙に浮いている巨腕は力を失い重力に任せて落ちていく。
岩色の禍神の身体は音を立て崩れる。
赤々と燃えるような色をした禍核も静かに、そしてそっと粒子へと還っていった。
仰向けに寝転がった洸太郎は力一杯叫んだ。
波乱続きだった鎮守になるための編入試験は嵐のようにやって来て嵐のように去っていった。
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