第19話 三章④『勇往邁進』

 名前も知らない大男が禍神に突っ込んだあと、その場は静寂に包まれた。

 想定外の出来事に洸太郎は呆然とするしか出来なかった。

 だが、ここにいても無事にいれる保証はない。

 痛む身体を引き摺り負傷者を安全な場所へと運んだ。

 遠くでは先ほどの大男が禍神とやりあっているのか余震のような地鳴りが続いている。

 「早く、助けねぇと―――――」

 だが、身体が上手く動かない。

 ダメージのせいでもあるのだろうが、それ以外に洸太郎が動けない理由があった。

 「あれっ………………何だよ、これ」

 ガタガタと震えが止まらない。

 それは前回とは比べ物にならない程のモノ―――――『恐怖心』が洸太郎の身体を支配していた。

 「クソッッ! 何だよ、動けよッッッ!!」

 自分の膝を叩くが一向に収まらない。

 情けない。

 そんな感情が洸太郎を支配する。

 所詮、自分の信念などこんなものだ。

 あれだけ神代に見栄を切って結果がこれならもう期待も何もないだろう。

 あとは外で待機している神代が来ればこの件はカタがつく。

 そう思っていた。

 しかし、

 「いてぇよ」

 「誰か、助けて」

 「ママ―ッ!!」

 と声を上げて助けを求める彼らの姿を見て洸太郎は歯痒くなった。



 これが、自分のしたい事だったのか?



 怖い。

 痛い。

 助けて欲しい。

 当たり前だ。

 この感情は消えることはない。

 十年前にも経験をしたのだ。

 この心の傷トラウマは簡単には消えない。

 だから、

 「くそったれ」

 自分を罵り、そして立ち上がる。

 ここから逃げ出したい。

 だが、

 「そうだよなぁ、逃げてばかりじゃ進まねぇもんなぁ」

 痛む身体を引き摺り、その辺に落ちていたデヴァイスを拾い上げる。

 大槌に剣に楯、槍もあれば色々あった。

 それらを収納サイズにまとめ破壊音が鳴る方へ向かっていく。

 「さて、どうしたもんかねぇ」

 今の現状であの禍神に手も足も出ない。

 というより攻略法が見つからない。

 先ほどまで少し期待をしていた神代もまだ来ないところを見ると想定外のトラブルが起きていると考えるべきだろう。

 ならばここから先は自分の力でやるしかないのだ。

 「アイツのあの振動…………ありゃなんだ」

 腕を震うだけで大気に衝撃を走らせる。

 それはもはや災害レベルだ。

 それに、先ほどから地面も揺れている。

 まるで地震が常に起きている感覚に近いものがあった。

 ゴーストタウンのお陰かそのせいなのか、揺れる度に瓦礫が落ちてくる。

 誰もいないのが不幸中の幸いというやつだった。

 「第二次神災フェーズ2か―――――なるほどね」

 この地震は今回の神災の特性なのだろう。

 第二次神災は初期とは違い、障気に加え何らかの災害を引き起こすというものなのだろう。

 「だからってそれこそ地震相手にどう喧嘩すりゃいいってんだよっ。それにあのでっけぇ腕も邪魔――――――」

 ふと、何か引っ掛かる部分があった。

 「あれ―――――何だろ」

 洸太郎は足を止めた。

 何かが引っ掛かる。

 震動を起こす瞬間、

 確かに―――――。

 「やってみる価値はあるかも知れねぇな」

 それには一人では無理だ。

 だから、

 「無事でいてくれよ」

 洸太郎は痛む身体を無視して走った。

 戦闘の音はすぐそこまで迫っている。

 まずは禍神を見つけたら最初に一発食らわせてやる。

 そう意気込みデヴァイスを握り締めた。

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