第13話 二章③『胎動』
試験会場となるこの黎明館学園は本来の場所ではなく、間借りした集会ホールのようでそれだけで緊張して損をした気分になっていた。
理由を聞くとやはり守秘義務の為、詳しくは教えてもらえなかったが情報漏洩防止を兼ねているらしい。
そんな感じで洸太郎はホールで一人寂しく立っていたのだが、まず空気が異常だった。
至るところで、
「いいか、キミなら大丈夫だ! 自信を持て!」
「お前は我が一族の誇りだ。失敗は許されん」
「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」
「帰りたい………………帰りたいよ」
カオスだった。
何と言うか、私立のお受験とはこんな感じなのだろうか、と洸太郎は思ってしまうほど場が荒れていた。
しかもそこにいる全員が変わった服装をしている。
ある者は神社の神主のような格好をしている者もいればローブに黒マントを羽織った魔法使いスタイルもいる。
来る場所を間違えたか? そう洸太郎が思っていると誰かとぶつかってしまった。
「あっ、すんませ―――――」
振り返るとそこには身長が二メートルあるほどの大男がいた。
その男は法衣―――つまり僧侶や住職などが着る衣装を身に纏っており、顔は傷だらけで無事な箇所を探す方が難しいぐらいな男は洸太郎を一瞥するとそのまま去っていった。
「――――――――――こわっ」
妙な威圧感。
そしてどこか大きな岩―――――いや〝山〟を目の前にしたような圧迫を感じ、
「凄い大きな人だったねぇ」
いきなり背後から声を掛けられた。
「のぁっ!?」
ここでは背後を取るのが流儀なのか? と疑問を抱く前に声を掛けてきた人物が「ごめんごめん」と気さくに手を上げた。
「さっきの人知り合い?」
見た目は十代後半、よくて洸太郎と似た歳の人物が尋ねてくる。
「いや、知らねぇ。ってかあんたは?」
少なくとも洸太郎が知っている人はここにはいない。
何のために喋り掛けてきたのかを怪しんでいると、
「あ、ごめんねぇ。ボクは
中性的な顔と声をした病田は爽やかに笑った。
「(うっ、この爽やかフェイス………………苦手だ)」
今まで敵意を向けられた事(主に不良から)しかなかったのでこんな風に笑いかけられた事がない洸太郎はむず痒く感じる。
「もうちょっとで試験も始まるみたいだし、お互い頑張ろう…………じゃあまた御縁があったら」
そう言って病田は去っていく。
一人取り残された洸太郎はポツンと虚しくなった。
『試験を受ける受験者の方はこちらへお集まりください。関係者以外は控え室へお戻りください』
凛とした声が会場に響きその場にいた全員が壇上に注目する。
そこにいたのはピシッとしたスーツ姿の金村美穂だった。
「あ、金村さんだ」
暢気な事を言う洸太郎を余所に美穂は説明を始める。
『本日の試験内容ですが、みなさんにはこれから浄化済みの〝神災禁忌区域〟に入っていただきます』
神災禁忌区域―――――既に神災により都市や街として機能していない場所を差す用語であり至るところに存在している。
神災には
これは前回に洸太郎が経験したものであり、比較的被害も少なく復興は早い。
今回の試験というのは少なくとも二段階以上ということになるのだろう。
『鎮守になるためにはこの状況を打破出来なくては務まりません。みなさん心して挑んでください』
そう言うと美穂は壇上から下りた。
周囲には緊張が走る。
「―――――ッ!?」
同時に洸太郎に悪寒が走った。
周囲の緊張とは別に明確な殺気。
自分に向いている訳では無いようだが、それでも不安が過る。
「何なんだ―――――今のは?」
もしかしたら気のせい―――――いや、自分も緊張しているのかもしれない。
そう思うことにしたが不安は増していくばかりだった。
そんな洸太郎を遠くで様子を伺う視線があった。
それは先ほど洸太郎がぶつかってしまった大男だ。
「――――――――――――」
無言で何を考えているか分からないがその視線は何か試すような、そんな眼差しだった。
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