第12話 二章②『〝鎮守〟編入試験会場』

 「ホントに来ちゃった」

 百鬼洸太郎は目前にある巨大な門の前で思わず声が漏れた。

 門の前にはでかでかと『黎明館れいめいかん学園』と書かれておりその横では立て看板に特別編入試験会場とも書かれていた。

 「マジで俺何でいるんだろ?」

 事は入院していた日まで遡る。

 〝対神災禍鎮静守護部隊〟―――通称『鎮守しずもりに所属する神代千賀、金村美穂の二人は用事があって洸太郎の住む町に訪れていた。

 その用事の一つに人材確保スカウトという目的があったのだが、これは思った以上に早くに見つかったと言っていた。

 そしてその時にまだ他にも用事があったのか? と聞いたとき少し寂しそうで、そして子供のように無邪気に笑って「もう大丈夫だよ」と言っていた。

 「そして強くてかっこよくて逞しい神代さんはボクの目標です」

 「おいオッサン。勝手にナレーション付けんなや」

 振り返るとそこにいたのは以前出会った時のようなヨレヨレのスーツを身に纏っていた神代だった。

 「ハハッ、どうやら緊張しているようだね。どうだい? オッサンが緊張を解すおまじないでも教えてあげようか? まずは手に人という字を――――」

 「ありきたりだな!? もっと他にもあるだろ! ッじゃなくて!? ホントマジ何しに来たの!?」

 そんなやり取りを遠目で見ている者たちは少しざわついていた。

 「おい、あれ―――――」

 「何で〝戦神〟が…………」

 「アイツ誰だよ」

 「何であんなガキと喋ってんだ?」

 と至るところから声が上がっていた。

 そんな注目の的になっているとは知らず洸太郎は既に疲れ果てていた。

 「まぁ冗談は置いておいて、良く来てくれたね。正直来てくれるか半信半疑だったんだけど」

 「まぁ、な。詐欺だとしても俺なんかに声をかけてくる意味はねーし、オッサンが強いってのも前ので分かったし…………それに」

 洸太郎は黎明館学園の校舎を見上げ、静かに拳を握った。



 「神災とか禍神なんつー意味の分からねぇモンに泣かされる人はこれ以上見たくねぇんだ」



 百鬼洸太郎は神災孤児だ。

 もちろん彼と同じ境遇の人は沢山いる。

 でも、

 あの日、

 少年が見た光景―――――

 傷だらけになり、泥だらけになり、それでも自分が生きている事を我が事のように喜んだ師匠おやの顔は忘れられない。

 そんな洸太郎を見て神代は頷き、

 「まぁあくまでもこれは試験でみんな平等だから駄目な時は駄目なんだけどねぇ」

 と元も子もない事を言い始めた。

 やっぱりこのオッサンはいい加減だ、とどこか遠い目をした洸太郎はそんなことを思った。

 そして、

 そんな二人を遠く離れた場所から視線を送るものが一人。

 その者は男なのか、女なのか、子供なのか老人なのか若人なのかは分からない。ただその見えない筈の表情が忌々しく顔を歪めているのだけは分かった。

 「なぜ編入試験会場こんなところに〝戦神〟が………………まぁいい。

 そう呟くと、その者は霧のように消えた。

 後には一陣の風が吹くだけだった。

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