第11話 二章①『己の往く道』

 百鬼洸太郎なきりこうたろうは病院の一室にいた。

 あの〝神災〟から無事生還したということで精密検査その他諸々と色々手続きが必要だったらしくかれこれ一週間の入院生活を余儀なくされたのだ。

 「いや、別にいいんだけど………………学校の単位とかどうしよう」

 素行の悪さに加えて普段あまり勉強に熱を入れていなかった事もある。

 なので流石にこのままではいかんですよと彼の中の警鐘が鳴り響いている。

 「イヤですよーワタクシは。もうじき夏休みというのに青春の一大イベントを補習に充てられるのは―――――いや、今からでも先生に土下座すれば間に合うのでは?」

 個室なので大きい独り言を言っても誰もツッコまないので端から聞いていればかなり痛い人になっているが、そんなことを言い出したら洸太郎の青春が無くなってしまうので気が気では無かった。

 「いやー、土下座じゃあ駄目なんじゃない?」

 「何言ってんだ。この百鬼洸太郎様のスペシャル土下座を拝めば生活指導教員ごりらだって―――――――っておわぁっ!?」

 気付けば神代千賀どこかでみたおっさんが隣でリンゴを剥いていらっしゃった。

 「おわぁっだって。イマドキそんな声マンガでも聞かないよ? ねぇ美穂ちゃん」

 「いえ、まず不審者を見つけた場合そんな声は出ますよ。なんなら通報しましょうか?」

 さらには金村美穂も何故か病室に置いてあった花瓶を手入れしている。

 「(忍者かコイツら)」

 などと思っていたが、二人の格好が前と変わっていることに気付いた。

 今日は軍服のようにも見える黒をベースにした服装をしており、同じように漆黒の外套マントを羽織っている。

 どこかで見たような? などと思っていると金村美穂が洸太郎の正面に立った。



 「改めまして、私どもは〝対神災禍鎮静守護部隊〟―――通称『鎮守しずもり』と呼ばれる組織の者です」



 そんな美穂の紹介に、洸太郎は―――――

 「しずもり……………………って何だオッサン」

 「はぁ、確かにドが付くほどのマイナー職だからねぇ。あ、リンゴ食べる?」

 二人の呑気さが美穂を苛立たせる。

 「リンゴを食べないでください。神代さんはもっとシャキッとしてください! シャキッと!!」

 秘書みたい、というよりもう母親に近いなと洸太郎は思ったがここは黙っておくことにした。

 するとリンゴを食べる神代は咀嚼し飲み込むと説明をする。

 「まぁ要するに神災や禍神を相手に戦う人ってこと。戦うだけじゃなくそれらを鎮め人を守る。まぁ対神災対策本部の上位って感じかな?」

 なるほど、と洸太郎は納得した。

 神代がどうやったかは分からなかったが一瞬で禍神をバラバラのしたのだ。

 それほど実力があるということだろう。

 「ではオッサンからも一つ聞きたいんだが――――百鬼洸太郎くん。キミは

 とぼけていた先程の態度とは違い神代の空気が変わった。

 そのまま話を続ける。

 「禍神マガツガミ―――――それは規格外の化け物だ。その辺の不良とは訳が違う。なのに何故戦ったんだい?」

 何故?

 そう聞かれて洸太郎は返答に困った。

 確かに神災が発生した時点で逃げるのが普通だ。

 いくら初期段階とは言え人智を越えた神災げんしょう禍神ばけものに一般人が立ち向かうのは自殺行為だ。

 だが、



 「何でって………………人助けるのに理由なんていんのか?」



 確かに人を―――――特に自分を狙ってきた不良たちを助けても感謝はされないだろう。

 もしかしたらまた報復しに来るかもしれない。

 それでも見捨てる事は出来なかった。

 それが百鬼洸太郎の生き方であり性分なのだ。

 「ま、喧嘩はいつでも買うし。あのまま見捨てた方が後味は悪いしな。俺は俺の道を行くよ―――――あぁでも説教は勘弁してほしいかも。結構俺ガラスハート」

 そうか、と神代は短く呟いた。

 そして、同時に懐かしい気持ちにもなった。

 バスで出会った時に感じた懐かしいような感覚を今も感じている。

 神代は緊張を解すように柔らかく微笑んだ。

 そして――――――――――。

 「百鬼くん。キミさ、ちょっと『鎮守』を目指してみない?」

 急なトンデモ発言が飛び出した。

 病室は、先程とは違った変な空気が流れただけだった。

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