第10話 一章⑤『決着の裏側』

 二人が廃工場跡地に到着したのは連絡を受け十分ほどしてからだった。

 「神代さん! あそこです!!」

 金村美穂が叫ぶ。

 現場では警察車両や救急車などが数台止まっており、警察や救急隊員などが慌ただしく動いている。

 「はいはーいごくろーさん。現状はどーなってる?」

 間の抜けた声に苛立ちを隠そうともしない警官の一人が、

 「誰だ! 一般人は立ち入り禁止だ!」

 と怒鳴っている。

 「あ、ごめんねー。おじさん、実はこう言うモンなのよ」

 神代が懐から一冊の手帳を広げて見せると警官の表情が変わった。

 「ま、まさか! しししし失礼しましたッッッッッッ!」

 「いいのいいの。で? 状況は?」

 神代が尋ねると美穂が代わりに答える。

 「どうやら巻き込まれたという少年達は無事保護されたそうです。それと、現在の神災は初期段階です」

 まだ―――――それはこれからも神災は進化をし続け段階が上がれば上がるほど手に負えなくなる、そう美穂が告げている。

 「ふむふむ、ならおじさん達で対処はでき」

 「申し上げます! 少年達の報告で――――ひ、雛型ではありますが…………『禍神』も顕現しているとの事ですッ!」

 空気がざわつき始める。

 神災が発生しただけでなく、続けざまに禍神も出現したとなると状況は変わってくる。

 「神代さん」

 「………………すまないがキミ達は本部にそのまま報告を。ぼく達は中に入って対処するよ。被害は出さないようにするけど、万が一があるかも―――――」


 アアアアアアアァァァァアアアアアアアアアッッッッッ!


 人が、いやこの世の生物が発することの出来ない咆哮が辺り一帯に響き渡った。

 「―――――不味いね。みんなは早く退避を」

 神代がそう言うとダッシュで現場へと向かう。

 「神代さん。先程のはやはり」

 美穂が歯切れが悪い言い方をする。

 やはり不安なのか少し手が震えていた。

 「そうだねぇ、受肉したての禍神は破壊衝動を発散させようと周囲のモノを手当たり次第破壊する。正直今日の装備じゃ不安だな」

 まだ初期段階というのが不幸中の幸いだった。

 あとは同時に発生した禍神さえ何とか出来れば―――そう思い瘴気が濃い場所に辿り着き、



 「な――――――――――」



 まず美穂が目にしたものに対して声を失った。

 訓練を受けていたはずの美穂でも実際瘴気の濃度が濃い場所に来ると身体が重い。

 なのに、だ。

 彼女が目にしているのは

 「これは―――――神代さん」

 「うーん…………何て言うか、いや凄いね」

 さすがの神代も目を見張った。

 本来、ちゃんとした訓練を受けていても未知の化け物と対峙するだけでも身体はすくんでしまうのが普通だった。

 だがどうだろう。

 目の前には

 思わず二人はそんな少年に見入ってしまう。

 助けに入らなければならない筈なのに――――――と。

 美穂がそう思っている最中、神代は別の意味でその少年を見ていた。

 「―――――――――あぁ」

 なるほど、と思った。

 今朝出会った少年とは何か縁があると思ったのだが、ようやくその理由が分かったのだ。

 彼の姿を、戦う姿を見ているとどこか懐かしい気持ちになるのだ。



 「ああああああああああああああああッッッッッッ!!」



 少年の咆哮が響いた。

 どうやら決着は着いたようだ。

 「す、スゴい………………」

 美穂は言葉を洩らす。

 確かに一般人が禍神を撃退する。

 例にないことだが目の前で起こったのだから間違いではないのだろう。

 しかし、

 禍神はでは消滅出来ない。

 どんなに禍核コアを砕こうとも周囲の瘴気が禍核を瞬時に修復するのだ。

 「全く―――――

 神代が呟くと同時に禍神が起き上がりまさに少年にその腕を振り下ろそうとした。

 そこからの神代の動きは速かった。

 腰に差していた筒のような物を取り出し、化け物と少年の間に割って入る。

 そして、



 「術式展開コード・セット―――――」



 瞬殺。

 神代の持つ道具から刀身が伸び、瞬く間に化け物を細切れにしてしまった。

 「詰めが甘い―――――そう言いたいけどよくやったよ、少年」

 神代は自分を呆然と見上げてくる少年、百鬼洸太郎なきりこうたろうに優しく告げた。

 「やぁ少年、さっきぶりだね」

 と。

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