第8話 一章③『〝それ〟と対峙する』
初めてそれを目にした時、洸太郎はまず昆虫の〝ゲジゲジ〟を思い浮かべた。
ただ、胴体部分が黒いもやに包まれていてそこからは十対の人の腕に人の頭部を付け足したような風貌を果たして昆虫と例えても良いのだろうかと疑問はあった。
「はっ、何だよ………………それ」
体長的にはそれほど大きくはないが、それでも洸太郎より大きいのは間違いがない。
うぞうぞと動くそれは、まさしく人外だった。
キシャァァァァァァァァァッ!!
威嚇するかのように金切り声を上げる禍神だが一向に襲ってこない。
「(もしかしてコイツ―――――)」
試しに足元に落ちていた小石を拾い上げ遠くに投げてみた。
すると洸太郎の読み通り音の方へと禍神は意識を向けたのだ。
「(よし、これなら――――)」
やり過ごせる、そんな彼の思惑はすぐに崩れ去った。
「う、わぁぁぁぁッッッッ!? ばっ、化け物ッッッ!?」
その叫び声で気絶していた不良たちが一斉に目を覚ます。
勿論その悲鳴を『
うぞうぞと十対の腕を器用に動かし地面を這いずり回ってくる。
「こ、のッ!」
洸太郎は這いずってくる化け物の人型の頭部に蹴りを入れる。
メキリと確かな手応えを感じたが、同時にそれが全く効いていないと痛感した。
「う、お――――――――――」
蹴りを放った足を捕まれそのまま地面に叩きつけられる。
背中に衝撃が走り息が出来ない。
「ぐッッッッッ!?」
潰れた蛙のような声が口から漏れると今度はそのまま放り投げられ、壁に激突しそのまま外へと投げ出された
ギュルルルル。
邪魔者はもういない。
次は逃げ惑う獲物を狩る。
そう決めた化け物は腰を抜かしている不良たちに近寄る。
絶望、恐怖、怯え――――――そんな感情を纏った獲物を前に、
「さ、せ、るかぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!」
ずぶり、と化け物の黒いもやの部分に鉄骨が突き刺さった。
―――――!?
一瞬何が起きたか理解出来なかった化け物は、
―――――――――――――――ッッッッッッ!!?
後に襲ってくる激痛が走り声にならない叫び声を上げる。
鉄骨を抱えて突撃したのは他の誰でもない、洸太郎だった。
「早く逃げろ!」
洸太郎が叫んだ。
「さっき神災対策本部に連絡した! 早けりゃもうすぐ来る! だから―――――」
今度は化け物が刺さっていた鉄骨を引き抜こうともがき始める。
その力はかなり強く洸太郎は踏ん張るのに精一杯だった。
「さっさと、に、逃げ、ろッ!」
鬼のような形相の洸太郎に不良たちは慌てて逃げていく。
これで洸太郎と化け物の一対一という構図になった。
「さて、とっ」
洸太郎は鉄骨を離すと化け物と距離を取る。
化け物は貫かれていた鉄骨を引き抜くと身体から黒いもやが血のように溢れていた。
洸太郎は静かに深呼吸を繰り返す。
肺には『初期神災』特有の〝
「よし」
ゆっくりと構えを取る。
これは不良との喧嘩ではない。
正真正銘、
端から見れば間違った光景だった。
仮にも災厄が顕現した存在と正面切って対峙すること事態が異常なのだ。
だが、
それでも―――――。
「いいか
不意に小さい頃に師匠に言われた事を思い出した。
「別に正義の味方になれとは言わない。でもその〝力〟は誰かの為に使え」
別に正義の味方なんてキャラを目指した事はない。
だが、自分はこの
だから、
「来いよ『
高らかに宣言すると、
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