第7話 一章②『そしてその時、彼らは』
「いやぁ、まさか最初にバスに乗った場所が目的地だったとはね。こりゃオジサンも参ったよ」
はっはっは、と豪快に笑い飛ばしていたが同伴者である女性は凍るような冷たい視線を男に向けている。
「神代さん。そんなので許されると思ってます? 私はいいですよ私は。えぇ気にしてません」
あからさまに棘のある言い方をしていたが男、
二人は洸太朗と別れてから目的地の場所を聞く為にこの町に三件しかない学校にとある場所を聞いていた。
「先ほどの学校の校長ですかね。あの方は何故この場所を訪ねた時あんなに取り乱していたのでしょうか?」
スーツに身を包んだ女性、
数十分前に出会った時には「またアイツか」とか「これ以上問題を起こさんどいてくれ」などと只でさえ薄い頭皮を搔きむしっていたように思えた。
「まぁ色々あるんでしょ。それよりも」
神代は目の前にある屋敷を見上げる。
「ここは変わってないなぁ。あの人は元気にしてるかねぇ」
「確か神代さんがまだ見習いだった頃の恩師でしたっけ?」
そんな美穂の質問に神代は「そだよ」と短く返した。
「あの人凄いんだよ。まぁ俺も会うのは六年ぶりぐらいだし今は何してんのかなって―――――――――――」
するとそんな二人を近くを通った主婦らしき人が声を掛けてきた。
「あら、アンタたちここに用でもあるの?」
女性はスススと近付いてくると小声で話し始めた。
「アンタたち児童相談所か何か? いい加減ここのお子さん何とかしてよ。この町でも不良が総出でここの家に目を付けて毎日騒がしいったらありゃしない」
そこで女性がこの屋敷に住んでいる住人について色々と話をして三十分ほど時間が経過した。
「あら、もうこんな時間じゃない。いやね、時間って経つのが早いわ」
そう言うと女性はスーパーで買い物がどうとか言いながら去って行った。
まるで嵐のような人だ、と美穂は思ったがそれ以上に、同伴者の顔色を窺った。
「――――――――――――――――――――――」
初めて見る表情に美穂は何も言えなかった。
「美穂ちゃん」
不意に神代がこちらを見て悪戯する子供のような表情になる。
「ちょーっとオジサン無茶しちゃうけど、先に謝っとく。ごめんね」
そう言うと神代はそのまま屋敷の門を無断で開け放つ。
「ちょっ!!?」
美穂の静止は意味がなく、勝手知ったると言わんばかりに屋敷の中に入っていく。
彼女も神代を止めるために一緒に入ったが、その瞬間何というか気付けば優しい空間に入ったような感じになった。
まるで陽だまりにいるような、すごく落ち着いた空気に美穂は思わず足が止まった。
それは神代も同じなようで、
「やっぱりここは変わらないなぁ」
と言葉を洩らしていた。
門を潜ると目の前には屋敷への扉がある。
そこで、
「ごめんくださーい」
と今更ながらに声を掛ける神代。
美穂も呆れて「今更ですか……」とツッコんでいたが、家主から反応は無かった。
「休日だってのにどこ行ったんだか……」
神代は呟くが美穂も同意見だった。
「確かに変ですね。平日ならまだしも祝日にこんな朝早くに出掛けるなんて我々のような職業か部活動をしている学生ぐらいかと思うのですが―――――」
そこでふと、バスで一緒になったとある少年の顔が思い浮かんだ。
いやまさか、そう思い美穂は神代の顔を見るとどうやら彼も同じことを思っていたらしい。
「美穂ちゃーん。キミも同じこと考えてた?」
尋ねると同時に二人の携帯が同時に鳴り響いた。
神代が電話を取る。
「はいはーい、こちら神代―――――うん、そう。ふむふむ…………りょーかいしたよ。現場に金村と向かうね」
そう言うと神代は連絡を切り美穂に向き直る。
その表情は仕事をする時のスイッチが入った時の表情だ。
「美穂ちゃん仕事だよ…………僕たちの、ね。場所はここから少し離れた廃工場だそうだ」
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