第4話 序章④『奇妙な二人に挟まれて』

 バスに乗り込んだ洸太郎はバスの真ん中に座り、怪しい凸凹コンビは何故か彼のすぐ後ろに着席した。

 バスは通学時間だと言うのにも関わらずがらんどうで余計に目立っていた。

 「いや、だから美穂ちゃんはキツイんだって」

 「神代さんがもう少しシャキッとしてくだされば私も苦労はしません」

 などとかれこれ十分以上はこのやり取りが続いている。

 早く学校着かないかなーなどと考えていると

 「ところで少年」

 後ろから神代と呼ばれていた男が喋りかけてきた。

 「――――――――――なんすか?」

 喋りかけてくるとは思っていなかったのか思わず間が空いてしまった。

 「何故少年はこの休日に学校に行くんだい?」

 「――――――――――――――――――――――」

 違和感の正体が分かった。

 いつもなら通学する生徒で賑わっているはずのバスにどうして学生が自分一人なのか理解できたのだ。

 「あー……………………」

 どう言おうか迷っていると男はクスっと笑ったように感じた。

 「間違えちゃったでしょ?」

 ホントやかましい、素直にそう思った。

 「神代さん、いい加減にして下さい。本気で怒りますよ?」

 美穂と呼ばれていた女性は静かに告げる。

 あ、本気で怒ると怖そう。

 洸太朗は心の中でこんな女性とは近づきたくないな、と口には出さず心に留めておいた。

 「まぁ誰にでもある事さ。それより少年はこの町に住んで長いの?」

 「この町っスか? まぁ

 特に意識をせずにそう言うと神代は短く「そうか」と呟いた。

 彼の反応は変なものではなく、このご時世では洸太朗のような者は珍しいものではない。

 いずれも〝神災〟により孤児になってしまうケースが多い。

 洸太朗もその一人である。

 だが彼にとっては十年も前の話で、寂しい思いをしたこともあったが別に気にするようなことでもなかった。

 「すいません」

 洸太朗が何も喋らないことを不快にとられたと思ったのか美穂と呼ばれていた女性が謝罪をしてきた。

 「いや、別にいいッスよ。特に気にしてないしずっと一人って訳じゃなかったんで」

 律儀な人だと洸太朗は思った。

 プライベートな事に首を突っ込まれるのは正直あまりいい気にはならないが、不可避な場合いちいち気にしても仕方がないと思う。

 特に今のご時世そんな事を気にしていたらこちらの身が保ないのだ。

 そんな風に考えていると、今度は神代が声を掛けてくる。

 「少年、なんか欲しいもんでもある? オジサン奢っちゃうよ?」

 変な気を回してきたのか妙に気持ち悪い。

 「いえ、結構です。っつか今日休みなら俺次のバス停で降りるんで」

 正直なところ休日に制服を着ているのは居心地が悪い。

 神代はそっか……と今度は凄く落ち込んでいるのが分かった。

 なんか悪いことしたな、と思ってしまうのだが、こればかりは洸太朗も譲れない。

 「ま、また縁があったら奢るよ。冗談抜きでね」

 「このモラハラ上司は後でシメときますんで……ホント、気を悪くしましたね」

 なんかやっぱり変わった二人だ。

 そう思いながら洸太朗は宣言通り次のバス停で降りる事にした。

 降りたバス停から空を見上げると、先ほどまで晴天だった空が曇天に変わっていく様を見て、一雨きそうだな、なんて事を思っていた。

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