第33話 城と街

城の役目は防衛にある。

あらゆる外敵から身を守るべく、仕掛けを施し、罠を張り、待ち構える。その仕掛けに、敵は戦意を削がれて絶望し、退却の憂き目を見ることだろう。それが本来の城である。

時代によっては、城は富を示す広告塔でもあったのだが、その流れはまだここにはない。


戦いに必要なツールとして建てるのか、戦いを防ぐ為のツールなのかは、地理の要因もあれば、その時の情勢との差で違うだろう。


その用途の中で、この城が示す城の役割はどれなのかといえば、それは防衛のための物であると言えよう。

地理的に言えば、他国の境界ではない内側にあり、背後には人の踏み込むことのできない秘境があり、街道の脇にある。

対外的に見れば、ほとんど戦略価値はない。

しかし、王都と街を結ぶ、街道を抑える位置にあり、秘境からの進出を抑える形で建てられた城は、完成すれば、秘境からの防衛のための砦となるだろう。


それまで森からあふれ出る獣に恐れおののき、行き来する者はいなかった。


街の郊外で作られた品物が流通するようになり、反対に、街へも様々なところからあらゆる物資が集まるようになる。


それと伴って、ここで作られた高度な品を求めてくる客も増え続けている。

もはや、城というより、小さな町になりつつあった。

先にインフラを整えておいて良かった。

上下水道は完備され、どの建物でも使用できる。

この時代の街としては、最新鋭だろう。



城の外にも、宿を建設している。

これに関しては、防衛のみの契約で、第3セクターの事業で行われている。

事業はスレイマンが王都を巻き込んでの物であった。それはいろいろな意味合いを持っている。

伯爵であるスレイマンが王都の事業を運営しているということは、実質、王都の事業である。王のお墨付きがあり、誰にも手出しできないということだ。

それが、城内の設備も利用して、場外への延長で建てられている。一部、王都の物としての割譲の条件付きな為、扱いが複雑になっている。

もし、外部の者が城を害しようとするならば、国軍が出てくる理由にもなる。

この城の主にとっては、国軍など無用ではあるが、手出しをするものがいなくなる事を考えると便利なわけだ。



設備としては更に隠れた区画を整備してあり、入れない区域の警備は厳重にしてある。忍び込んでやろうにも吸血鬼の幻惑にかかるようにし包み込んである。

もし、強引に入り込もうものならば、ドロイドの警備にも引っかかるようになっていて、ドローンから打たれるか、ドロイドに捕まるだろう。



城の人間は徐々に増えつつある。

東の村から夫婦が3人で来た。イーリスに助けられた女の夫婦と子供だ。

そして漁村からも同じように助けた家族が来た。あの密告者の男の家だ。それとは別に、漁村の商品を扱うために常駐するものが交代で来ることになった。


そして、王都からも宿の従業員が城外での建設の仕上げと管理のために来た。

そのうち15人が働く施設となるだろう。


商人などからなるギルドが交渉に来たが、国を通してという事になっており、商人にとっては良い条件ではなかった。

別に構わない。そういう商売ではないのだから。


その代わり、城の外で行っている、茶の生産物と皮革に関しては例外としてある。

この茶ノ木は私が能力で品種改良したものを、イーリスが培養して増殖したものだった。得意分野をそれぞれ活用したというところだ。

そのうち、この地方で採れる茶葉が世界を魅了する飲料の茶葉になるべく生産のための布石として、国からもぎ取った。

国の政策としても、これは魅力がある話だろう。

国王もこの茶葉から作られる、フルーティな赤い茶には目がない。国の特産品として売り出す試験を進める方針だ。



スレイマンは常識人なのだが、ここの常識外れた物品の販売には口を出す。

これはダメあれはダメと言ってくるのがうるさい。

本人は大真面目なのだから、いいのだが。

常識から少し外れてても、この星の科学を進めるために、少しくらいは構わずに進めていきたい意図もあった。しかし、刺激が強すぎるということで、却下になった品物は多くあり、そこは城の備品として使うことになった。



早くステンレスとかの耐食性の金属とか化石燃料とか合成樹脂なんかの登場は進めたい。しかし、その前段階でこれだら、まだまだ先と言っていい。


それならば、強引に進めてやろうかと思ったが止められた。

仕方なく、村の近くの鉱山の小屋で常駐の村人を誘致する形で、スラムから引っ張ってゆき、製鉄を国指導で進めてもらう。


これだけでも数歩進んでいくだろう。

今度は、リアクターなしの木炭からの製鉄なので、規模は大きいものになる。

だが、鋼の生産となると、莫大な富を生み出すことになるので、国としては喉から手が出るほど欲しい物なのだった。

ただ一点、浅いところとはいえ、この森の中というところが問題である。

しばらく滞在して、動物を狩りまくっていたので、害獣は周りにいなくなったのだが、いなくなった分はまたやってくる事になるだろう。それだけこの森は豊かであり、尽きることのない資源に恵まれているという事なのだが。


これからも害獣の狩は続くだろう。そのほとんどは軍が出張り、隊を組んでの討伐という形となる。


そこで、重要なのが物資という事になる。

特に食料と医薬品。

この辺境で傷を負えば致命的な出来事となるはずが、村での出来事から、ここの村では怪我と病気では死人が出ないという噂がある。

そして、それがイーリスが発祥であることから、城から村までの移動が4日間。それまで耐えれば死ぬことはないと、軍に志願し、名を上げようとする者もあらわれた。

イーリスには迷惑な話だが。


その頃、同時にイーリスやこの城を狙う者が出てきた。

しかし、一様に手を出そうと近づいた時、落雷と共に蒸発するか、燃え上がるという事件が多発し、誰も手を出せないという噂が立つ。

容赦ない神の怒りとして、イーリスの神話となった。


それはイーリスじゃなくって、ドローンとフェイスの仕業だけどね。



城が出来上がり、人が集まるに従って、ここで働きたいという者が出てきた。

出入りの商人の知り合いだとか、王族の知り合いだとか、全くの飛び込みで騎士志望とか。

いやー。どうだろうね。

正直に面倒なんだけど、外回りの警備とか、お店の売り子とか、酒場のドリンク係とかなら・・・。

茶葉の配送なんかいいかもしれないね。

あ。革職人育てるとか。

外で屋台とか。

宿屋とか?

製鉄所の管理は足りてる?

というわけで、城では居酒屋のドリンク係か、門前で整理する人員とか、注文の品を配送するくらいしか思い浮かばん。

料理は完全にドロイドしかできない領域だし、これには人がするとなったら、時間がかかりすぎるだろう。

羊や馬、牛なんかの世話を貴族がやるわけないしなー。

警備はドロイド一人はいるし、十分だ。まあ、立たせとくだけならいいが、誰が給料払うんだ?


そうだなー。イーリスの手伝いか?

それこそ飾りになってしまいそうだ。


いっそ、学校でも作って、料理と製薬がセットで、あと、経理と物理でも教えるか?

フフッ

爆弾作ってたら面白いな。

イーリスにも相談しよう。



3日後、医療と製薬の学校が茶畑の脇にある薬草畑の小屋を増設して行うことになった。

主には栽培と製薬が基本で、医療技術は家畜の解体と実際の治療を街ですることになった。

ここで働く者か莫大な費用を払って学ぶ形式となって、費用を払って学ぶ者は少ししかいなかったが、働きたいと申し出るものは多数だった。

希望者は2000人を超え、その全てを受け入れる事はできないにせよ、それに伴うインフラ確保だけでも町が出来そうだ。


うん。ヤバい。


街の建設は進む。

王都からの要請を断れず、住居や食堂、物品の販売など、整備した結果、初期で900人、毎年200人が入ることのできる施設を建設することになった。

あと、それぞれの部門に分かれた研究室をいくつか作って、新しい技術の開発と謳って、科学を研究させる。

1年から6年のコースで学ぶようにするための物資を、それぞれ作っていく必要がある。


輪転機欲しい・・・。

コピー機欲しいな。

うーん。

ドロイドみたいに、一気にインストール出来たらいいにのにね。

こっそりアルミで印刷機作るか。いいだろそのくらい。

うちは紙があるんだから、少々問題ないだろ。

などと、とんでもないことを考えながら、フライス盤を作るための部品を加工をしている。

これが出来れば、粗方の金属加工ができるようになる。

まだこの世界では早いのだが、ねじ加工や部品を作るためにはあると便利だよね。


そのようなわけで、学校がこの城で働きたいという希望者の働き口となったり、学生が作物や家畜、料理など仕事にかかわることで、技術の伝達にもなってゆく。


同時に、増え続ける人口に都市計画の必要が出てきた。

このまま行けば、1年後には5千人、その次の年には1万人を超えるだろう。インフラ整備が急務になって来る。


森と草原の境に城がある。そこから南2キロに王都から街の街道がある。城から街道を巻き込む形で街が造られることになった。

街道に近いところが工場や商業区、その隣が住居区、城までがもとからあるブラドの農園が続く。

学校は病院と一緒に農園の一角に固まって建てられる。

街道沿いに馬車屋か運送屋が建つ以外は禁止してある。

そこから商業区に入るには入街税が必要だが、そこに街ができる予定だ。役所もそこに建てる。

城は森からの防衛と学校の管理のみが役割となる。


そして、周りに人が増えてゆく中で、ゆっくりとドロイドを30体にまで増やし、警備と城の裏での製造を行っている。

それに気が付いた人間は何人かいただろうが、まさか、ここまとは誰も思うまい。


これで城の初期設備のすべての完了となる。




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