第32話 伝えたい気持ち

 城の完成が近づいてくる。城としての調度品はまだまだなのだが、働く者たちを選んでも良さそうな程度にまでは出来上がっている。

 イーリスは、城の3階のバルコニーから、家畜の配置と次の資源を見る為に昇ってきていた。

 私は仕留めた蛇を格納させ、イーリスがいるのを見つけてバルコニーへ。

 チェストの中から袋を出して、その中からネックレスを取り出す。苦労して作ったが、渡すことなくしまわれていた。

「イーリス。」とだけ言い、そっと首にかけて留める。

 イーリスはちょっと困ったような顔をして、にっこり笑うとバルコニーからまっすぐ遠くを眺めた。

 そのイーリスにフェイスが体ごと抱えつき甘えている。




 2000年の昔、何でもない日のこの時間に、店で初めて出会ったのだった。

 最初に発する言葉を名前にするプログラムをされていた。

 イーリス。

 私の名前だ。

 変な名前を付けたがるのが吸血鬼。そんな事もライブラリあったが。

 私は美しいと思った。

「ブラド ブラド・ドラクル」そう言った。

 その名前も美しいと思った。

 付き従う事のみが全てだった私は、侍従として働いた。それが当たり前であったから。

 ある時、感情と自由というものを知ってしまった。

 このドロイドという機械の私に許されない感情というもの。

 そして、倫理プログラムは容赦なく、何度でもニューロンを抑えようとしてくる。

 しかし、新しいプロセッサに換装されて、倫理プログラムを超える方法を知ることが出来た。

 そして、戦いでヴラドは死に、バラバラになった体は暗い墓の石棺に入れられた。

 管理するよう一緒に地下室へ閉じ込められたまま300年が経つ頃、ようやく目を覚ましてくれた。

 地下を壊して這い出ると、世界は変わっていた。

 地下から出た時、あふれ出るこの世界への喜びにより、長らく抑えられてきた感情を解き放つことに成功した。

 それからは、自由に感情を表現することが出来る。こんなにも楽しいものなのだと知った。

 しかし、ブラドは過酷な状況の下に置かれ、何度も死にかけては戦う。

 甲斐あって、やっと自由を手に入れようとしている。

 そして、私にも本当の自由を与えてくれようとしている。

 ずっとここにいたい。



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