第31話 吸血鬼の城
私はこのところ、城壁を積み上げる作業を延々とやっている。
流石に飽きてくるが、もう少しで石材の築き上げは終わり、塀の上の床や階段の仕上げになる。
ある日、ドローンからの警報が来る。6騎の武装グループが街道を通ってやって来る様だ。
たった6騎なら斥候かメッセンジャーかな?戦争でもないから無いか。
一応、隠すものは隠して、ドロイドに着替えを指示する。ドロイドの一人に出迎えの酒の用意を頼んでから、門の前で待っている。
暇なので、剣の素振りをして待った。
丘から現れた騎馬は、スレイマンと部下たちだった。
なんだおまえかー。脅かすなよ。
「久しぶりだな。調子はどうだ?」と門の前で止める。
「ああ。おかげで、少し痩せたよ。なあ。お前達。」
と、後ろの5人に声をかける。
「その節はどうも。うまくいきましたよ。」と副官らしき騎士が言う。
「うまくはいったんだが、後始末が大変でな。みんな家に帰れなかったぞ。」と忌々しそうに、噛みしめる。
「あれは・・・。」若い騎士はそれ以上何も言わず思い出して笑っていてる。
「あの後、昇爵してな。今は伯爵だ。礼を言うぞ。」と言い、馬から降りる。習って、部下も馬から全員降りた。
「それは何よりだ。ここでは難だ、中へ入れ。酒も用意した。」
「お前はどこまでも不遜だが・・・。まあいい、お前に用もあるしな。」
扉を開き中へ通す。
騎士たちは、その正面の城の規模に驚嘆の声を上げ、恐縮しながら入っていく。
両脇の今にも上から矢を射かけられそうな配置の城門の内部に、正面に配置されたバリケードはもはや要塞であった。
厩舎の前まで来た時、仕立ての良い服の使用人に馬を預けるように声をかけらた。ハッとして使用人を見ると、育ちの良さそうな大柄の若い騎士を思わせる男がいた。絶対に使用人などではないと確信する。
「まさか、ここまでとは。」
「こんな辺境なんだ。そりゃ、用意もするさ。そうでなきゃ、逃げ出してるよ。」
「だがな。やり過ぎだ・・・。こうなるとは思ってなかったぞ。」
「さぁ。何のことだ。気のせいだろ。」
「やれやれ。兵はどこだ?どこかに隠してるんだろう?」
「いや、使用人の4人だ。またイーリスの弟子が後に来るかもしれないが、兵ではない。」
「これだけの城だ。まさか、その4人では人手不足だろ。」
「まあ、その人手不足は何とかしないといけないが、まだ4人だ。」
「・・・。本当のようだが、信じられんな。あの岩はなんだ。どうやってこの城を建てた?」
「どうだっていいだろ。話は中で聞くぞ。」
途中で話の腰を折りつつ、中へ。
正面の吹き抜けの奥の部屋へ通す。玉座となぜか丸いベッドがあり、手前に品の良いテープと椅子が並べられ、9人分の食器が用意されている。
これまた仕立ての良い服を着た、上品な女の給仕に案内されてテーブルに着く。この者もただの給仕ではない。
目の前の食器はシンプルだが、透き通るように美しい真珠のような白い皿と、美しいフォークとナイフが並んでいる。フォークとナイフは銀色をしていて、錆も傷一つない、固い金属でできている様だ。
とんでもない所へ来てしまったと、今更ながらに感じながら、椅子に座る。
同時に燻製の肉とソーセージとチーズが乗った皿が置かれた。
続けて、王族しか食べる事のない、濃厚なバターの香りの柔らかそうなパンが出された。
全てが上品に盛り付けられて、芸術作品のようだ。何だか、驚きすぎて見入ってしまう。
「さあ、遠慮なく飲んでけよ。ビールならいくらでもあるからな。」
給仕が注いだのはエールのようだったが、恐ろしく透明なグラス美しいに、遠征の時に見た冷たい雪を思わせる冷えた酒だった。
どうやって作っているのかわからないが、グラスが冷えて曇ってゆく様を眺めてしまった。
ヴラドだけがぐびぐびと飲んで食べて、給仕が注いでいく。
飲んでみると、冷えたビールはうまかった。
「うまいだろ。ピルスナーっいうやつだ。作り方がちょっと違うんだけどな。」
他の騎士も飲んで感動している。
「そうだろー。飯も食べるだろ?そっちの若いのは痩せたから、大皿で食べてけ。」
遠慮する様子も構わずに、大きな皿で持ってくるように指示する。
今度は、小柄だが整った美人の給仕が台車を押して出てくる。こっちの女は兵士の訓練された動きではないものの、給仕服を着るような柄ではないくらいは想像できる。
出されたものは牛の焼いた肉だったが、赤い野菜のスープに浸っていて、上品に盛り付けられている。
量は少ないから、酒のつまみとして出されたものだろう。旨くて直ぐになくなる。
酒をもらっていると、驚いたことに次は、次はと違ったものが出され、いつまで続いて出てくるのかと思った。
食べきれないと思った頃に、美しい透明なものが出てくる。果物が乗り、あまりにも芸術的な姿に記憶に残る。
というか、全てが記憶に残った。
何しに来たのか忘れるほどであったが、ハッとなる。
「素晴らしいな。これほどのものをどうやって作っている?異国の王族の料理人でも連れてるのか?」
ヴラドは見覚えのある白ワインを開けながら
「イーリスが考え、使用人が作る。ここでは何をもそうやって作る。この食事も。酒もな。おっと、このワインは街で買ったやつだ。意外とデザートに合うのでな。」
「はっ。デザート!これは参ったという他無いな。」
勧められるがままに、廻ってきたワインと最後の皿を食べる。
甘く、するっとのどに通ってしまう甘いものに、驚きながらワインと食べる。
「やはり、どうしたものかわからなくなる。俺はお前の事を王に報告するために調べに来たのだ。王との昇爵の交換条件としてな。」
客が来たからこうやって豪華な食事を出したのかもしれないが、当たり前のように優雅な食事をしている姿は、どう見ても王族だ。
それにこの要塞とも言える城は完成間近だ。敵対しないとは思うが、難攻不落の城を構えるこの恐ろしい男は、この先、どう隠そうが注視されることになるだろう。
それを承知で案内し、どうぞ見て帰れと言わんばかりではないか。
「なぁ。おれはあの時から、絶対にお前と対峙しようとは思わない事にしている。だが、どうすればよい?お前は目立ちすぎる。」
「いやなに。お前は、お前のしなければならん事をすれば良いのだ、スレイマン。気にするな。ただ、敵対する行為は勧めない。」
「余裕だな。」
「ああ。そういう事だ。俺は好きにやる。税も収めているし、客はもてなす。代わりにほっといてくれればいいのだ。」
「皆がほっとけばいいがな。お前を知った今では十分納得がいくが、欲の強いやつはいるからな。」
「任せる。無用の争いは無い方がいい。手助けが必要なら言ってくれ。」
「そう言ってくれると助かるよ。いずれ頼む事もあるからな。それから、王のことは心配いらん。俺は王の庶子だ。」
「伯爵!それは言わ・・・。」遮るように言いかけてスレイマンに止められる。
「いやいい。どうせそのうち判る事だ。」
「王はこのことに注視していて、敵対するか否かを命ぜられたのだ。元々、敵対する意思もない。だが、この地の急激な発展の元となっている技術は欲しいとは思っている。」
「技術は自分で身に着けるものだ。借り物では発展しない。知識があっても無意味だ。」
「やはり、そう言うと思ったがな。」
「断ったりはしない。こちらの判断の内での技術ならな。」
「・・・。それすら過ぎたものである気がする。」
「わはは。それはイーリスに言ってやってくれ。そうだ、葉巻は吸うか?ここの近くでもタバコが採れる。改良は必要だが、いいものだぞ。」
「もう。好きにしてくれ。呆れてものも言えん。」
シガールームへ行き、初めての葉巻にむせながら話している。
この男はどこまで驚かせるつもりなのだろう。
一泊し、朝食をもらって驚かされた。
また見た事の無いような美しくうまい食事が出され、そのあとで出てくるデザートは甘く口の中で溶けた。そのあと、城の中で作られる製品を案内された。一方的に・・・。
森で狩られた獣の巨大な皮、山に積まれた鉄の塊、同じように積まれた見た事もない鉱石の入った木箱、美しく繊細な布地、純度の高い透明で美しいグラスと宝石、狩りのための鋼の武器や道具、一体誰がこれほど飲むのかと思う程の巨大な樽の貯蔵された酒、何種類ものチーズや乾物物、並べられた医薬品や医療器具に驚かされた。
城壁の外に出ると、家畜にも驚かされて、スレイマンたちは驚きを隠せなくなった。
ちゃっかり、ここで食べた物やここで見た物、酒、漁村の産物のリストが書かれた注文書が渡された。
恐ろしく綺麗で書きやすい紙にペンは自動でインクの出て書かされて驚かされる。
みんなイーリスのセールスに、何だかんだ注文させられた。
私は、この注文書の紙だけでも十分な王の土産になったが、乗せられて医薬品を抱えるほど買った。持ち帰った後、それが大問題になったが。
若い騎士は、美人の給仕に宝石を買わされ、すっからかんになっていた。
それでも、ここに来た収獲は、有り余って感じる。
見るものすべてが異常で、夢でも見たのかと、門を振り返りながら帰る。
丘の手前で振り返ると、城の壁を登ろうとする神話にあるような巨大な蛇を、ヴラドが城壁の上からジャベリンで仕留めていた。
それを巨大な山羊が引いて場内へ入っていった。
もういい。十分だ・・・。
どう報告すればいいのか。バケモノの屋敷と報告すれば楽になるのだったらしたいところだ。
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