第30話 吸血鬼の部下

 作業小屋はいろんな資材の乾燥部屋になっている。

 ほとんどのものはイーリスの物だが、一部のそうではない木材や陶器の乾燥もしている。

 ここには資源が豊富にあるので、すごいスピードで物が増える。


 ここの森は鬱蒼とした植物に覆われている。

 主には、幹の直径が6メートルを超えるものがある種類の針葉樹だ。

 高さは60メートルもある木が存在する。葉はある種の細菌に対してのみ抗菌作用のある物質を何種類か持ち、絶えず幹や根を守るべく放出している。

 ここの凶悪な動物の体当たりでもびくともしない幹は、その成長速度で、この森を守り続けてきたのだろう。

 そして、この森が豊かな理由としては、特にこの森に多く自生する窒素を溜め込む類の植物だ。

 肉かと思う程のアミノ酸やたんぱく質を溜め込む豆や芋。枯れると死体かと思う程の臭いを放つ10メートルの草。樹液が甘く、いつでも花を咲かせる30メートルの木。

 そういった植物が、この森のを支え、朽ちては次の命を作る糧となっている。

 成長速度が速く、日陰であっても上に伸びようとする性質がある。

 

そして、ここに生息する小動物も通常より大きく、昆虫も大きい。

 大人しい性質の大きな蜂を飼って、城で蜜を集めているが、使いきれないほどの量になる。

 1メートルもあるゲジゲジやミミズは珍しくない。



 農耕にも運搬にも使えそうな3メートル級の羊もを調教し、石材や粘土、木材の運搬に使役している。

 フェイスがこの森の主になりつつあり、戦いを挑んでは使役している羊に引かせて持ち帰ると、私たちにドヤ顔でお披露目する。


 私の故郷にも大きなトカゲがいた。

 滅びてしまったが、結構、近代まで確認された生物だった。

 ドラゴンと呼ばれ神聖な力を持つとされていて、狩ると名誉をを与えられる。

 王の誰しも、このトカゲを狩り、身を立てる事で、権力を持つことが出来る〝王〟の称号を得ることが出来る時代があった。

 大昔の事なので野蛮な王が多かったのもあると思う。

 物語のように火は吐いたりはしないが、固い鱗に覆われた厚い皮膚は槍を容易には通さず、崖から追い落とすなどの方法を取る事が多かった。



 そういう生き物はどこにでもいるのだなと思った。

 私の祖先もこの生き物を狩り、王の称号を得た経歴があるそうだ。

 そして、それを狩ってきたフェイスは王として名乗っても良いのかもしれない。

 そこで、イーリスと協力してフェイス用の玉座のように豪華な丸いベッドを作り、1階の上座に据える。

 気には入っていたが、それよりも気に入っているのが、ここの森で採れる芋とタマネギや豆と煮る肉料理だった。

 シンプルだが、味が濃くてうまい。そのうち、乳が採れるように牛でも飼って、チーズと合わせても良いな。



 城の中心の住居棟も瓦まで乗せて壁が出来た。

 外から見れば、もう完成のようにも見えるくらいだ。

 中はまだ全くと言っていいくらいなので、表面だけの張りぼてなのだが、遠くからでも見えるこの砦は、見る者を威圧しただろう。




 一応は中で住めるようになり、ちょっとづつ造作がされて、風呂やキッチン、トイレの上下水が整備された。

 そうなってから、人手が足りないのが気になりだす。

 元から人手不足だから、気にしないでおこうと思っていたのだが、村への支援や街への情報交換と手続き、イーリスの製造、フェイスのごはん、城の建築、鉄の製造、調度品の制作、醸造、交易品の作成。


 自分でやりたかったものはいいとして、少しばかり中途半端になり過ぎていることになった。

 故郷では人手があったので、全く気にすることなく数か月で築城したが、細かい部分まで一人で行うと何年かかる事やら。


 今のところ、この地へは誰も近づかないし、近づけないので客の心配はない。

 誰に見せるでもなく建てられる城ではあるが、主としては気になるところなのだ。


 だが、今の状況からして、他人を招いたり、職人すら入れられない。

 リアクターが倉庫にあり、機織り機が作業場にあり、有機合成する設備があり、化学合成された繊維の糸と布が大量にあり、高圧電線が建物を這い、巨大な羊、馬、蜂、牛がいて、水を貯める巨大なステンレスのタンクがあり、井戸に鶴瓶のような設備は無く、機械で汲み上げる。

 その全てが、知らない人々には異様に映るだろう。

 そしてなにより、まだ巨岩での外壁の内側の積み上げが残っている。その姿を見られようものなら、怪物として討伐の対象にされかねない。


 そこで思いついたのが、アンドロイドを降下させることだった。

 潜入型用の造形ユニットも持ってくれば、永久に稼働する工作員ができる。

 イーリスと比べるとプロセッサの速度に差があるが、問題ない程度に完璧にこなすので、ライブラリの拡張をすれば違和感はまずない。偽装だが、食事もできる。

 イーリスも作業の進捗が進むとして反対ではないらしい。

 稼働はD-T電池なので、補給は問題ない。



 ドローンには数種類のドロイドが搭載されているが、そのほとんどは武骨なバトルドロイドである。

 それ以外に、船外作業用ドロイド、ドローンのメンテナンスをするドロイド、そして潜入型ドロイドである。

 潜入型と言っても、ドローン内部の警備と他のドロイドの補助を行う万能型である。

 そして、敵地に侵入して、スパイ活動や破壊工作等を行うための器用な作業もできる。

 必ず3体は搭載され、ローテーションで1体は常時稼働している。


 ドローンの4機から1体ずつ、男性型と女性型を、それぞれ少しずつ違う造形にして作成させ、造形ユニットと共に降下させる。

 降下にはドローンで行った。燃料を3%使うが、ほぼ無限に補給可能なので気にならない。

 暗い曇天の日を狙って降下する。

 ゆっくりと、惑星の外周を回りながら抵抗を減らして降下してゆく。

 時間はかかるしシールドの燃料は消耗するが、降下が確実で物理シールドを節約しながら降下できる。

 もちろん、ステルスモードは忘れない。

 かけ忘れててたら、ヘンな噂が流れたり、おかしな宗教が出たりするからな。


 ドローンから使用済みの燃料電池のセルを降ろし、湖で補充する作業はドロイドに任せる。

 部隊をせん滅するためのエネルギーに0.0001%の消費に対して、3%も使用するのだからシールドの消費は膨大だ。

 今度は離脱のエネルギーだが、こちらの方も1%とすごい量を使用する。

 ま、ドローンの燃料電池セルは20個。そのうちの1個の3%なんだけどね。


 それぞれ作業に移ってもらい、色んな細々とした事が急に解決されてゆく。

 彼らは基本的に昼や夜を関係なく稼働する。なので、そうしたデリカシーもおかしなものになりがちだ。

 イーリスと相談しながら、それぞれ違う人格を作り、対応を変えるようにした。

 これで、客が訪れた場合の偽装もできるだろう。


 一つの質問に対して、全員が寸分も違わず同じ反応したら怪しいだろう?

 ハモるのは音楽か、コメディアンだけでいいよ。

 と、ぽっちゃりフェイスが3匹で一斉に右足前足を上げて〝よっ〟とハモるのを想像してぷっと笑った。




 急ピッチで築城が進む。4人の作業には無駄がない。設計図の通りにパーツを作っては組んでいき、土や漆喰を作って仕上げてゆく。

 おかげで、塀の巨岩の積み上げが集中してできた。ここまで来れば、大きな石材は使用しなくなるので、時間さえかければ人間でも出来る作業になったと思う。

 門や、調度品もいくつか作って並べる。


 見られてはまずいものを隔すための倉庫や作業場も区画を別にして立て直し、荷車や馬車、薪や乾燥中の木材の陰にうまく隠れるように配置した。

 歩き回らなければ見つからない様にはなったと思う。

 表向きに対応する区画も用意して、客はそこから一切、出なくても用事が済むし、把握できそうな見かけにしてある。


 狭い範囲なので、いろいろな種類の固定した菌の培養はうまく出来なかった。

 醸造酒の種類はピルスナーとエールの2種類のみとなってしまったが、それだけに、でかい醸造樽の並べてある酒蔵は圧巻ものになった。

 それ以外は街で買おう。




 偽装も終わり、住居棟が竣工する頃、季節は暑い時期にになっていた。

 この辺りは、あまり温度変化がなく年中温暖であるが、この時期だけ気温が上がる。

 森は一層、青さが増し、奥地に行くほど、動物の生息数が増す時期でもあった。

 数は増すが、草原地帯はいつもに比べると比較的安全な季節にもなった。

 クレイトンたちの言っていた落ち着く頃というのは、この時期の事だったようだ。

 街道には行き来する馬車や騎馬が少しだけ通るようになった。皆、一様に逃げるように通り過ぎるが、このような地域では仕方ない。

 せっかく建てた砦なのだから、寄っていけばいいのだがな。


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