第29話 築城
近くの川と谷から石灰岩を主に石を運んでいる。
それこそ地形が変わるのではないかという程運び、建物の基礎を作っている。
85メートルの6角形をした城壁に石造りの塔を建てるつもりである。
イメージとしては、その昔、わたしの領地の砦がモデルの家だ。
簡素で頼りになる城だった。
能力を使って巨大な穴を掘り、巨大な岩を岩山から運んできた。
主には北側に巨岩を配置し、外敵の質量から壁を守る役割をする。その巨大な岩をいくつか置いて、それを繋ぐ形で城壁は築かれる。
厚さ4メートル、高さ8メートルの城壁は、この自然の驚異からも身を守るであろう。
城壁への階段も備え、敵を迎え撃つ兵も配置できる。
しないと思うが。
城壁を外面だけ立てて、先に井戸を掘る。すぐに水が湧いて出て、3メートルほども進めば生活水程は十分だったが、15メートルまで進んだ時に勢いよく水が出るようになってきた。
そこから石を積み上げては砂利を裏に詰めたりして上まで築き上げてゆく。
そして、住居や作業棟の地盤固めをして床を上げるための盛り土をする。周囲の地面から1メートル高いところに城壁内部の床を作るようにした。
井戸にはでかい石の板を乗せて、上を通っても崩れないようにしてある。隅からパイプで吸い上げるようにする。常に貯水量は40トンはあると思う。
大抵の作業は賄えるだろう。
排水は雨水と下水に分けて排出する。
住居は中心部にあり、1階部分は吹き抜けが2部屋と倉庫になり、2階の各部屋が食堂やキッチン、ゲストハウス、娯楽室、3階部分が私たちの住居になる予定である。
給排水の設備には樹脂製のパイプを使いたいため、作業棟を先に造り始める。
基礎は固めてあるので、1階の壁は石を積み上げて築き、上に木造の梁を乗せて屋根を作った。
全ての作業棟が完成したのが、築城から2週間。
驚異のスピードで築き上げてゆく。
近辺で採れる石灰石がセメントの材料となり、建築が捗った。
城の外で瓦を焼いて冷える時間を待つ間に、一度、東の村へ行く。
築城の間、フェイスは森の獲物を狩り続け、皮や燻製肉、干し肉が有り余っていた。
すっかりぽっちゃりのフェイスに、笑いが止まらない。
ちょっとダイエットしようなー。
少し遠回りではあるが、漁村を経由して村へ行く。
街道は人の行き来が増え、村は少しづつ活気を帯びてくる。
かつての活気を取り戻すべく、一歩進み出したという言葉が当てはまるだろう。
更に、ここへ交易のための港の建設の政策案が出ているという。今はまだどうなることやらわからないが、まともな行政機関が置かれて、生活が安定する事を願いたいものだ。
魚の干物や魚醤、タコやイカの珍味、薬品用の海藻の乾物を引き取ってゆく。
ここでの産物は、交易品としては優秀であった。
塩の生産を新たに行う者も出てきた。
港から少し離れた場所だが、潮の流れがあり、湾よりも透明度の高い海水が流れ、ミネラルの豊富な塩が採れるという。
そしてカニの店もできて酒場が出来、商人や役人の宿泊できる宿も建て計画も進んでいる。
そのうち、下水などのインフラも整備されて小さな町が出来るだろう。
村人個人にもゆとりができ、イーリスの下で医療の分野の弟子になりたいという者も出てきた。
あの内通者であった男の妹らしい。
この村での医療に劇的な進化をもたらした技術は、彼女にとっては崇拝すべき対象のイーリスと相まって、進む道へとなっていった。
だが、私たちの状況が許さない事もあり、直ぐにはできないだろう。
歓迎すべきことではあるのだが、しばらくの時間をもらって準備すると約束し、村での医療に貢献しつつ勉強の為の資料を渡す。
先ずは、文字が読み書きできなけりゃな。
因みに、イーリスがカニのスープとゆでた足をお代わりしてた。
東の村はまたざわざわしていた、以前、行方の分からなくなった盗賊団が、森の中で遺品だけが発見されたのだ。
街道沿いの少し入った林の中に、獣に荒らされてほとんど体がない遺品の一つが見つかった。
そして、探索していると周囲に武器や鎧、持ち物の類が散らばっていた中に、名前の書かれていた遺品があったらしい。
遺品は一まとめにして埋められた。
傷み具合からして、私が現れた時期と重なるため、衛士の数人に同じ質問されてしまった。
そして、イーリスが助けた女や回復した者達が、衛士に喰ってかかる騒動になり、止めるのに大変だった。
衛士は困ったが、そもそも街の上役から追及の必要はないと言い渡されていたので、それ以上何も言わなかった。
その上役から、丁重に扱うよう伝えられていた男と女の特徴がそのものであったので、驚いて質問してしまっただけだったと話していた。
村の医療の為に、イーリス用の診察室が用意され、長い順番待ちの列ができる。相変わらず貴族扱いのイーリスに、更に信者が付き、ちょっとしたこの村の権力者になってた。
イーリスには全く興味のない扱いだが、その扱いに乗っかかって、患者の治療の為に言うことを聞かせる。
ある意味、合理的?な働きになって、徹底的に治療が進み、確実に平均寿命は延びてゆく。
ちょっと怖い診療所だが、それを和ませる役目の者もいる。
ぽつちゃりフェイスがどすどすと診察室の待合室を歩くと、その変わり果てた姿にクスッと笑っている。
座り込むと、肉が顔を押して目が細くなり、ヘン顔になってもふられながら眠そうな姿は誰をも癒す。
その間、暇になった私は獲物の皮をなめす作業を村人に発注する。
建築中の城の近辺で余るほどの獣の皮が捕れるので、馬車に乘り兼ねる程だ。村人は、その一つ一つの獲物の大きさにびっくりするものの、ブラドだから・・・と納得している。
何か引っかかるけど、それはいいとしよう。
代わりに、燻製肉や魚の干物、街で買った新品種の野菜の種を売った。
この村では魚醤は受けが悪かった。
一通り回ると、村のまとめ役のところへ行き、弩とクロスボウのメンテナンスをした。
弩の部品に気になる点があったので、構造を削って金属の部分を追加したり、鉱物油を塗る。
クロスボウは場合によって付け替えるチャンバーや照準器、ランチャーと交換した。
金はかかっても、武器の近代改修は必須だ。
そのうち銃も置いたりして。
そして、また広場で酒盛りが始まる。
今度は珍味を用意したので、酒が無くなるのが早かった。
街の不良みたいな光景だが、最初は程々にしてもらおうと注意しに来た衛士も加わって盛り上がった。
そのせいで、その場の男は皆、村からひんしゅくを買ってしまっていた。
まだまだ終わらないイーリスの診察に、暇になった私は森の中の小屋へ向かった。
森の中の拠点はそれはそれで置いておくつもりだ。
ここで人間が製鉄でもするというのなら開放するが、それはしばらく無いだろう。
ビークルに一杯のまずいものを積み、ステルスモードにする。
そして、荷馬車に乾燥の出来上がった薬草や鉱物、ガラスや小物類の全てを積み込んで戻る。
ビークルは森の中に隠してくる。
まだまだ終わらない診察に、1泊してから村を出る事にした。
小屋から持ってきた薬草を薬研で粉末にしたり、束にしたりと手伝った。
そして夕方になると、燻製肉の作り方を教えて欲しいという者が現れだした。
それには香辛料が使われていて、寝かす塩やはちみつが必要で高価なものであると知ると諦める者も出た。
それでも、気に入ったという者もいて、レシピを板に書いて渡して説明しておく。
その為の香辛料の栽培や入手も教える。
ハードルは高いが、これで産業が生まれれば、それを切っ掛けに新たなる産業が生まれる事を期待する。
出来れば、ハーブや茶の栽培をお願いしたいのだが。
それもハードルが高いので、やる気のある物から始めてもらおう。
それに何と言っても、近くで鉄が生産可能な鉱脈や鉱床があるんだから、そちらに力を入れて欲しいな。
この世界ではまだまだ高価な鋼の生産なのだから、一気に発展しそうなのに、もったいない。
くー。
もったいなすぎる。
時期を見て説得してみるか?
枯渇するまでは発展し続けるだろな。
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