第27話 拠点探し

 漁村の様子もわかったし、ここでの目的は一通り達成している。

 決定ではないが、街の周囲で拠点に出来る良い場所がないか探索したい。

 出来れは資源の豊富な場所が良いが、開墾の進んだ場所も点在するので、範囲を広げて探す必要はありそうだ。

 場所を選ぶ条件に理想はあるのだが、優先すべきは1人と1体と1匹が『住んでみたい場所』と直感で思う事である。

 便利であるとか、資源の有無とかもあるのだが、折り合いをどこで付けるかという問題になるだけ。

 と言っても、あればの話だけど。




 村からの要請で、街までの護衛の約束をし準備する。

 売れ残りの果物は、全てフェイスが漁って食べたらしい。出発前に、ナイフと鉄の塊と鍋と獣の革が売れ残りの中からさらに売れた。代わりに、漁師の自慢の魚介の干物や発酵食品をたくさん買った。

 今度は漁られないように、フェイスに言い聞かせる。

 ちゃんと守るかどうかわからないけど、静かに聞いてるフェイスも漁って食べるフェイスもたまらん。

 イーリスと二人でしばらく荷台でもふりながら幸せに浸る。


 最近の事件により、正常な生活を送れるようになり、漁村は活気を取り戻しつつある。

 だが、事件の直後であるため、護衛の義務を衛士から言い渡さている。

 問題なしとされるまでの間、街と漁村の間の行き来には、護衛を付けなければ罰金が課せられるようになった。

 異例ではあるが、ここのところの事件の解決率の悪さで、衛士の手が足りていないらしい。


 行き来する商人にはあまり歓迎されないだろうが、この漁村からの恵みで得られる利益はそれを超えるので問題にならないようだ。

 ごろつきもいなくなった漁村は、それだけでいらぬ出費が無くなり、これを機に進出してくる商人が増えている。


 しかし、こういう時こそ護衛の必要性が出てくるわけで、村では議論されて護衛の役割を負う人員を選び出していた。これからは、先の経験を生かして防衛する手段も身に着けるよう進めてゆくらしい。

 ごろつきの一団が消滅したというだけで、ごろつきが出現しなくなるわけではない。縄張りを拡張しようと、他のごろつきが現れる可能性もあるわけだ。


 その為の相談を領主にするつもりらしいが、それには問題だらけだ。

 直接の村の役人は腐れ貴族だ。その上に領主がいるがまともな政策が施されるはずがない。

 それでも、村ではそれを回避するための方法に、領主に直かに相談するらしか無いと議論付けたらしい。

 例え領主に嘆願した事で、処罰されようともだ。

 まずい。せっかく蹴散したのに。

 ある程度の統制が布かれ、衛士が駐留する事で、厳しいながらも安全を確保する政策を取り付けられるかも知れない。

 約束はあっても、衛士が派遣される事は無いだろうけど。

 ならば、先回りして潰すか。


 イーリスが不安そうに村人達を見つめている。このままでいけば、また元の生活が待っているに違いない。

 イーリスの思考にはどんな絵が描かれているのだろう。





 街へは平和な道のりだった。獣は出たが、野盗やごろつきにも遭うことは無く街に着く。

 そりゃそうだ。

 ほぼ狩り尽くす程消滅させたのだ。出たとしても、少数であるに違いない。

 街の門のところでは、村からの2人が降りて護衛人員の有無を取り、通行が許可される。

 私も税も払って、干物を扱う商人事と剣と槍を見せて、護衛である証明をもらって入場する。


 呼び止められ、門の脇にある詰め所で待つように指示される。すぐに私が街に入った事を知らせる衛士が出て行った。


 しばらく掛かるようなので、イーリスを詰め所に残して、以前、宿泊した宿へ馬車を移動してフェイスと戻る。

 フェイスの愛嬌のある姿に、通り中から子供や餌を与えたがる人が声を掛けてくる。

 もう人気者の地位を獲得して、もみくちゃにされている。

 気にせずすたすたと歩いて詰め所に戻ってきたが、フェイスに限っては大丈夫だろう。


 あ。

 揉め事があっても、街ごと破壊するのは勘弁だけどね。

 遠くから、もみくちゃな人たちに向かって言う

「詰め所にいるから連れてきてくれよー。」

 と言って詰め所のドアを開けて入る。


 村人も待っていた。

 2人だけでは不安らしく。イーリスに同行する事にしたらしい。

 貴族に見えるところは村でも言われてたっけ。


 しばらく待つと、呼ばれてやってきた騎士らしい姿の男がやって来る。

 衛士の団長なのだそうだ。名前をクレイトンと名乗った。

 件の参考人である私たちと一度、面識を持つ必要があっただけのようだが、それには国の騎士からの要請でもあったようだ。


 良くも悪くも彼はまじめな騎士であるらしい。

 貴族でありながらも、騎士としては出世しないだろう。現場重視の考えを持ち、公平な立場である事に生き甲斐を見出す貴重なタイプの人間なのだ。

 めんどくさいが役に立ってもらおう。


 他国からの旅をしていて、行く先々で路銀を作る商いをしながらここに来た事。

 漁村で傭兵と女を殺したことを話し、我ながら素直に話したものだ。

 怪しさ満点ではあるがね。

 あとは想像に任せるとして、おかしな方向へ行かなければ良いのだが。


 そして、漁村で感じた村の雰囲気から、領主の庇護が必要だと話しておく。

 そして、イーリスの勧めで村人から事情を話させ、領主に願い出る事が可能かどうか聞く。

 答えはノーだろうが。


 彼は少し考えてから、考え直すように言う。

 決死の覚悟のある村人ではあるが、徒労に終わるだけでなく、もっと悪い状況になる可能性もないではない。

 それならば、違うやり方を・・・と、言い掛けて止まる。


 また考えて、それならばと人払いをし、小声で私に話しかける。


「ここへ私が来た理由はわかるだろ?」


「わからん。なんだ。」


「なぜ、俺に言う?村人に話せばよかろう。」


「このやろう・・・。いいから聞け。ここから西に行くと城があるだろ。その反対側にコルツ家がある。そこの当主のスレイマンに会ってみろ。」

 来たな。スパイの男。やはり、こちら側らしいな。


「会ってどうする。家来にでもなれと言うのか?それなら断るが。」


「呆れたやつだ。まだとぼけるか。」


「わからないものはわからんさ。なんにもな。」


 彼は諦めた様子で、椅子に座り直す。

「事情があるのには理解してやるがな。会ってみるのは悪い話ではない。」


「仕方ない。会うのはいいが、俺達では目立ちすぎる。そんな場所へ行くことはできないぞ。」


「わかってるじゃないか。どこか安全な場所を用意しよう。」


 商人のくせにかなり上からだが、この時点でただの商人という肩書は何の意味もない。ペースに巻き込まれないようにするだけだが、あちらの目的に乗るためにも、言う通りにしてやる他ない。


 これ以上、余計な詮索をされたくないので、こちらから話を変えてやる。

「しばらくの間だが、どこか森の傍で静かな場所で住みたいと思っている。そうだな、街から出て1日、2日のところで、水のあるところだな。」


「どうだろうな。そういうことは詳しくないのでね。

 いや。ある・・・あるさ。落ち着くまで待てないか?目の届くところから出ないでいて欲しいが。」


「街にいろというならそうするが、長くなるなら待てん。」


「人を付ける事も出来んし、厄介なことだ。」


 外にいるイーリスを呼び戻す。

 イーリスとフェイスに溶かされた村人が入ってくる。ここまでの道のりでも溶けまくっていたもんな。

 クレイトンはフェイスを見て固まっている。


「お前の狼か。」わなわなしながら、目がとろけだす。


 わかるよ。その気持ち。

 ん?狼?

 そうだ。狼だったわ。すっかり犬だと思い込んでたな。





 村人も同じ宿に部屋を取り、これからの予定が変わったことに戸惑ってはいるものの、どうするべきか議論している。

 イーリスは彼が余計な行動に出ないように、慎重になるよう説き伏せる。

 一旦は、私が何かしらの情報をもたらすまで、大人しく待つよううまく言いくるめた。


 船でもそうであったが、大抵の者はイーリスに説得されてしまう。イーリスのライブラリから最適解で導かれるは術は優秀である。

 さすが貴族〝様〟なんて思われるのも、全く自然な流れなのかもしれない。。



 私はクレイトンの言う通りに指定された穀類専門の問屋に来ていた。

 ここでしばらくいれば、使いの者が現れ案内されるだろうという事だ。


「あんたがヴラドかな?」声をかけてきたのは、人の良さそうな若い青年だった。


 そうだと答えると外へ出て近くの家に案内される。生活感の無い家は、そこが何かしらの目的で用意された住人のいない場所であることがわかる。

 そこには2人の騎士とあの男がいる。

 その男がスレイマンだと名乗る。


 彼は内定を任された領主のスパイだという。そんなに正直に言わなくても良いのではないかと言いたかったが、そのことは措いて村について話す。

 村の現状と傭兵と女を殺したこと、そしてイーリスと旅をしている事、しばくこの近辺に住む事も話す。

 離したことはクレイマンと話したことと同じであるが、どこまで信じるだろうか。

 だが、それ以上は何があっても話せない。

 それ以外の問題ない点で願いたいところだ。


「お前が現れてからだ。不思議な事件が立て続けに起こるのは。あの村での盗賊の消息が絶ったことから始まって、今回はごろつきどもだ。」


「よくわからんが、何か俺に関係する事か?」


 やれやれといった様子で下を向いて考えてから続ける。


「問題はそこではない。今のところ、何処から来ようが、目的は何かかは問わないつもりだ。」

 こっちがやれやれだ。何か気が付いているのは間違いない。

 今は見逃すというのだが、ずっとそうしてもらいたい。



「お前の事は全くわからん。調べても何も出てこん。

 お前の連れの女もだ。貴族でもない、国の機関の者でもないのに薬を売ってると聞く。」


「自己流だ。」本当だ。自己流の剣だ。戦で生き残るための剣しか知らない。


「まさかな。」


「本当だ。嘘は無い。」イーリスのライブラリはあるけど。


「まあいい。そういうことにしてやる。

 事実、手術までして病人を直してしまったそうじゃないか。それに他にも元気になったという証人がいる。

 それにお前も、怪物のような熊をあっという間に葬って、素行は悪かったが腕の立つ傭兵を仕留めたそうじゃないか。」


「そんな簡単な話ではない。それなりの準備もあっての事だ。」


「どうだかな。責めるつもりはない。感謝すれどうこうするつもりは、この町には無いと思ってくれ。」


「この街ね。どうだかな。」


「そうだ。この『街は』だ。それには協力が欲しい。」


「それはいいが。何をしようとしてるんだ?ゴミは捨てればいいんじゃないのか?」


「おいおい。随分な言い方だな。相手は貴族だぞ。形だけとはいえ、王が与えた爵位だ。そう簡単には覆せないし、処罰できない。お前の、獣を簡単に殺す様にはいかないのだ。」


「そうか。ならどうするつもりだ?お前は暗殺をするような奴にはは見えないがな。そうだな、拘束して吐かせるか。」


「恐ろしい事を言う。こっちは宮仕えだ。出来る事と出来ない事がある。」


「ならば、お前が出来ない、ソレを俺がやるか。」今すぐドローンの爆撃で潰してやると言いたいのを抑える。



 殺気も抑えたつもりだが、全員がビクッとなって身構える。


「まて。」周囲を制止し、続ける。


「勘弁してくれ。ああ。殺る前に会っといて良かったと思うよ。熊の皮調べた。ほぼ一撃で仕留められた、恐ろしく綺麗な皮だった。お前を相手にするとこうなるんだと、今、悟ったよ。」

 この場の私以外が青さざめている。


「いや。その必要はないだろ。」本心である。


「貴族だ、証拠を固めて断罪するしかない。それも、決定的なものだ。」


 あ。それ、持ってる。


「なんだ。急にひょうきんな顔して。」びっくりしたような顔はしていないが、驚いているようなふりをしている様だ。


「くくく。心当たりがある。」


「そうか。じゃあ、それをくれ。」そら、出てきたと言いたそうだ。


「期待に沿えるかどうかどうかわからんがな。」


「いい。それだ。提供するなら、入手の手段は問はないと約束しよう。」

 なんだ?いいのか。


「わかった。いいだろう。それとは別だが、一つ頼みたい、いいか?」


「・・・。聞くだけ聞くが、出来ない事は断るぞ。」こちらからの要求は無い物と思っていたものが、相手が相手だけに、無下にはできないと感じたのだろう。

 こちらには、他に厳しい要求もできたのだが、そっちは引っ込めよう。


「この街が気に入った。街の外れのどこかに拠点を建てて住もうと思っているんだが、良い場所はないか?川が近くにあるところだ。」


 無茶な要求をされるのかと思っていたので、安心した彼はため息をつく。

「少し考えてみる。あるにはあるんだが、落ち着いてからでないと住めんかもしれん。」


「クレイトンも言っていたが・・・。なにかあるのか?」


「まあ、大したことは無いが・・・

 そうか!そうだ、お前なら大丈夫だ。案内人も付ける。住居を構えるなら、支度金も出すぞ。」

 怪しすぎる。タダで貰えるというなら貰うが、訳あり物件を押し付ける不動産屋じゃないんだから。

 ダメなら断ろう。


「・・・。良いところならな。」


「それは保証する。」

 ホントかよー。




 宿に帰ると、すぐに村人に説明する。うまくいけば、領主に直訴などしなくとも問題が解決する。

 村人は泣いて喜んだ。

 貴族を始末するのは決めていた事だが、人間なりのやり方で解決してゆくのも必要である。

 そのあとで始末しようと、改めて思った。

 イーリスも黙って聞いていたが、喜んでいる様だ。


 そしてイーリスは書類を取り出すと、別の紙に包み直してくれた。

 封をして、スレイマン・コルツと宛先を書き、ブラド・ドラクル・ワラキアと差出人の名前を書く。

 久しぶりに昔の名前を書いたな。



 そして、スレイマン達は書類の余りにの内容に発狂し、すぐに貴族と商人は捕らえられることになった。

 それに関わる者達も同様にである。






 村人を送りと届けた後、村での治療を行っている間、私は漁船に乗り込んで手伝っている。

 網を降ろし、また引き上げるだけなのだが、一度やってみたかった。

 船団を組み、連携して網に追い込んでいく様は、見応えがあった。

 たくさんの青魚に混ざる捕食魚の引き上げは、重さで網が破れそうで、協力して引き上げる。


 沖の小さな岩礁に潜って突く漁は、他の漁民に負けずに捕れた。

 その時に、イーリスがいつも採取する海藻も採る。

 漁民も海藻は食べなくはないが、そのいつもは食べない海藻に捨てられそうだったが、無理言って干しながら持ち帰る。



 気が付いたことがあったのだが、ここの海は東の海よりも冷たい。

 海流があって、冷たい海水が、沿岸沿いに流れるらしい。

 そういった理由で、場所によって違う魚が生息し、多様な恵みがあるという。


 そこで、一番冷たい海に潜ってみると、浅い岩礁の上に海藻が密に茂り、カニや大きな貝がうようよいる。

 パラダイスだ!

 漁師に待つように言って、ロープを腰につけ、獲物を袋に入れたら引くので上げろと言っておく。


 潜って2分。それ以上は怪しまれるので浮上するが、何回か繰り返せば大丈夫だろう。

 腰に袋をたくさんつけて潜る。

 足を広げると1.5メートルにもなるカニをどんどん詰め、貝も詰め込んで紐を引く。繰り返していると時間を忘れて3分も潜っていた。

 また潜る。船の上でワーワー言っていたが構わず潜る。

 今度は2分で上がる。また潜る。


 袋が無くなって、船に上がると、漁民がポカンとしている。

 ん?

 一瞬、シーンとしてから話し出す。

「これ。食べないだろ?」

 ん?なにいってんの?


 よく聴いてみると、普段は捨ててるらしい。姿が気持ち悪いのと、時期によってスカスカで食べられないらしい。

 そんなこと言っても、イーリスは爆喰いしてたぞ。

「あれは、イーリス様にちょっとした・・・その・・・いたずらだったんです。女共がね・・・。」

 えー。いたずらって・・・。


 そうなんだー。文化の違いってすごいな。

 じゃあ、もらっていいよね。


 村のみんなが引いているのを横目に、爆食い第二弾になった。

 イーリスがお腹いっぱいでお腹をさするのを、初めて見た気がする。







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